「タダのランチ」はない!

 もちろん、このようなスキームは中長期に持続可能とは言い難いものです。マイアミコインを保有する人への配当には、後からマイニングに加わる人のSTXが充てられている訳ですので、マイアミコインの保有者が増え、一方でマイニング参加者が減るにつれて、いずれ配当はゼロに近づいていくはずです(そうでないと、つじつまが合わなくなります)。やはり、「タダのランチ」はないのです。

 したがって、通常であれば地方自治体は、自らが宣伝広告等に使われることを警戒し、このようなスキームとは距離を置くでしょう。少なくとも、市はコインの発行に関わっておらず、コインを入手する行為は実質的に寄付であることを、人々にきちんと認識してもらう必要があります。

 もっとも、マイアミ市はマイアミコインを通じた寄付を既に受け取っており、スアレス市長は、市はマイアミコインを通じて2100万ドル(約24億円)以上を得たと発言しています。さらに市長は今月、マイアミコインを通じた収入をもとに、マイアミ市民にビットコインを配布するとツイッター上で表明しています。

 このような情報発信が先行きリスクに繋がることがないかは、一つの留意点でしょう。マイアミコインの保有者が、市への寄付という趣旨ではなく、現実にはマイアミコインへの配当や市の公的なサポートを期待している場合、この期待が裏切られれば市政への信認まで低下するおそれがあるからです。

 また、このコイン発行のスキームが今やマイアミだけでなくニューヨークも対象とする中、このスキームがこれまで以上に注目を集める可能性もあるでしょう。

地域経済活性化に必要なこと

 暗号資産の発行は、世界的にみても、手っ取り早く発行益を得られる可能性があることなどから、人々が飛びつきやすい分野です。しかし、地域経済の持続的発展にとって、暗号資産の値上がり期待や配当期待を利用することは本筋ではありません。デジタル技術を広範な産業の発展や住民の利便性向上に役立てていくことを、まず考えていくべきでしょう。

 マイアミ市は、市をブロックチェーンや分散型台帳技術の集積地とし、エンジニアや関連産業を誘致したいとの意図を表明しています。この点、市がマイアミコインとの適切な距離の確保を誤れば、むしろ人々の警戒感を招いてしまうおそれもあるでしょう。今後マイアミ市が、デジタル技術を産業育成や市民への情報開示、事務効率化などに活用する取り組みをどの程度本気で進めていくのか、注目したいと思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。