デジタル化と人間の可能性
一方で、このデジタル化の時代に、出場者や世界中のファンが、ショパンという約200年前の一人の人間が39年の短い生涯の中で残した音楽を弾き続け、聴き続けていることには、人間の大きな可能性を感じます。
現在、AI(人工知能)による作曲も可能になり、さまざまな作曲アプリも登場しています。例えば、“OpenAI”の“MuseNet”(https:// open ai.com /blog /musenet/)では、AIによって作曲されたショパン風の曲が掲載されています。また、“MuseScore” (https:// muse score.org /en /piano)のように、楽譜からその通りのピアノの音を鳴らしてくれるソフトウェアも数多く登場しています。
しかし、AIにショパンの楽曲の特徴を事後的に学習させ、そのパターンに沿った曲を作らせることができても、ショパンという人間によって初めて生まれた創造そのものをAIが代替することは、まだ困難です。また、ショパンの曲だけを弾くこのコンクールでは、同じ曲が何度も繰り返されることになりますが、それでも動画に聴き入る人々は、一人ひとりが違っていて、その時々で何が起こるか分からない人間の演奏だからこそ、楽しみにしているわけです。
人間臭の漂うクラシック音楽の、しかもピアノのコンクールに、デジタル技術のサポートによってこれまで以上に話題が集まったことは、デジタルと人間との共存に希望を与えてくれるものだと思います。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。