「投資より貯蓄」という意識を変えたい
今でこそ、PayPayや楽天、au、クレディセゾンなどポイント運用サービスを展開する企業も増えているが、2016年の創業当時、そうしたポイントの使い方があるということ自体、ほとんど認識されていなかったという。
土屋 ポイント経済圏がどんどん大きくなっていく中、同時に、ポイントを運用するという使い方が大きくなってきて、今、非常に注目いただいているというところだと思います。私たちが始めた頃は認識すらされていませんでしたね。
実は同じ時期に、われわれは個別株式がポイントに連動するという形で、クレディセゾンさんはポイントが投資信託に連動するという形で特許を出してスタートしています。ある方のご紹介でお会いできる機会があって、お話ししてみると、株と信託という違いはあれど、狙っていることは同じですよねと。お互い、ポイント運用という新しいビジネス領域を広げていきましょうということで、永久不滅ポイントとの連携と合わせて出資をしていただいて、今も良い関係でやっています。
では、この「ポイントで株式投資と全く同じ体験ができる」サービスの狙いは何かというと、「投資」に対する意識、そのハードルを下げることだ。もともと金融機関向けのITを手掛けていたという土屋氏。クライアントである金融機関が抱えていた「貯蓄から投資へ、国民の意識を変えたい」という問題意識を共有していく中で、ポイントを使った運用ならそのハードルを下げることができるのではないかと考えたのだ。
既にもう何年も前から、年金制度への不安も含めて、自分の将来のお金のことは自分で考えましょう、貯金だけではなく一部は投資も考えていきましょうという流れになっている。国も、NISA(少額投資非課税制度)など制度として整備し、後押ししているが、現実の口座開設状況はなかなか渋い結果だ。
要因として大きいのは、やはり「小さい頃から特に投資について何も学んできていない」ことだ。リスク(損をしてしまうこと)への恐れがハードルを上げている。
土屋 ご存じの通り、今は貯金をしていてもほとんど利率がつきません。相当の金額を持っているのであれば大丈夫かもしれませんが、そうではない方はやはりある程度の利率、それが2%、3%であったとしても、運用していかないと、なかなか自分の将来のためのお金の準備ができないという状況です。
それがもう日本の国策としてもいわれている一方で、日本人は投資よりも貯金が好きなんですよね。一部は投資や運用に向けていかないと駄目という状況なのに、なかなか国民が動かない。なぜだろう、どうしたらいいのかということが、当時、われわれのクライアントだった金融機関に大きな問題意識としてありました。われわれも社内でディスカッションしたんです。すると、「投資というと難しい」「勉強していないから分からない」「もしかしたら証券会社にだまされるかもしれない」というような、その一歩が踏み出せない心理的なハードルがあると推定できるわけです。
では、そのハードルを下げるために何ができるかなと。まずは「損する」ことを避ければ、少額でやってみれば損をしたとしてもそんなに心は痛まない。じゃあ少額で投資ができるくらいなら、お金を使わないで投資ができればいいのではないか、と思ったんです。ポイントのままで投資ができれば、現金の持ち出しは一切ないわけなので、結構、気軽にやってみようという方が増えるのではないか。そのアイデアを持って会社を作って、特許を取って、ビジネスをスタートしました。
アプリサービスとしては一般の利用者には無料で公開。STOCK POINTとしてどこで利益を得ているかというと、金融系の企業からだ。例えば、StockPoint for Connectの場合、コネクト証券で実際に口座を開いて株取引をする人を増やしたい、だからポイント運用サービスをやるというのが目的であり、StockPoint for Connectはそのためのマーケティングを担っている。その対価はコネクト証券が払うという、いわゆるB2Bモデルだ。
面白いことに、証券会社側にとっては販路の拡大を、同時に利用者個人にとっては、意識の変化につながる体験を提供できているということになる。これはサービスデザインとして非常に注目に値するというか、サービスとしてのストーリーがとてもうまく作られている事例と言えるだろう。
実際、利用するユーザーの中には、これまで証券取引をやったことがないがポイント運用を経て株主になった人もいるという。ユーザー数は現在およそ35万人、ボリュームゾーンは20代を中心とした比較的若い層、男女比はほぼ半々という比率だ。
また、こうした投資運用サービスに付随しがちな、利用者のための勉強会なども特に企画していないという。ポイントなので、遊びのような感じで「あれ、なんで上がったんだろう」とか「下がったのはなぜか」と、やっていく中で気付いてもらえればいいと土屋氏は言う。
土屋 投資や運用となると難しいことを言う人も多いし、全然分からないとなってしまう。案外、普通の投資家の普通の直感が結構いいと思います。直感でいいなと思う会社はたぶん上がるし、これは駄目だなと思う会社は下がる。この商品は人気があって売れているっぽい、みたいな直感って結構、正しいんです。
ただ、どうしても株式投資というと、一攫千金的な、少ない元手で大きく儲かるのはどれかと、そういう目線になってしまうのですが、そういう銘柄に当たる確率はすごく低いので。もちろん、時々はありますが。それよりは、下がることはありながらも何となく成長しているよねという会社に投資して、それを見ながらニマっとなるほうが精神的に健全だと思います。