前年版(2017年版)のランキングで、中国の順位は78位でした。この順位付けに対し、中国当局は「中国の現状を正しく捉えたものではない」と繰り返し世界銀行側に抗議を行っていました。

 その後、2018年版の報告書の起草段階で、中国の順位がさらに下がって85位になりそうだとの報告が、世界銀行内部で行われました。それを受け、上層部からの圧力により、中国の順位が上がる方向での計算方法の調整が行われ、この結果、中国の順位が前年と同じ78位まで上昇したということです。

 また、サウジアラビアも、かねてから世界銀行のランキングが同国の実情を反映していないとの不満を表明していました。こうした中で作成が進められた2020年版の報告書の起草段階では、中近東でビジネス環境が最も改善した国はヨルダンと評価されていました。しかしながら、上層部の圧力により、サウジアラビアの評価をヨルダンよりも上にするような評価の変更が行われたということです。

アドバイザリーサービスの問題

 さらに、内部調査では、国のランキングを作成している世界銀行自身が各国に対しアドバイザリーサービスを提供していたことも問題視されました。各国が、ランキングでの自国の順位を上げたければ、お金を払って世界銀行のアドバイザリーサービスを受け入れなければならないと考えてしまうかもしれないからです。すなわち、ランキングの作成者が同時にコンサルティングを有料で行うのは、利益相反ではないかということです。

報告書公表の中止

 これらの内部調査結果を受け、世界銀行は“Doing Business Report”の公表を取り止めることを決定しました。

 このように世界銀行が、過去の問題についてしっかりと調査し、その結果を公表し、さらに報告書の公表そのものを取り止めるとの決断をしたことは、世界銀行の自浄能力の表れであり、敬意を表したいと思います。

 毎年10月には、「IMF・世界銀行総会」という、IMFと世界銀行にとっては最大のイベントが開かれ、世界中から大臣や報道陣がやって来ます。その直前であるこのタイミングで実名入りの内部調査の結果を公表するのは、大変なことであったと思います。この問題が総会でも大きな話題となり、現地でのメディアの質問も集中する可能性が高いからです。ましてや、当時のキム総裁は既に引退しているとはいえ、ゲオルギエバCEOは現役のIMF専務理事であり、自ら記者の質問の矢面に立つことは必至です。