「ランキング」への教訓

 今回の事件は、「ランキング」の作成ビジネスなどに、いくつかの教訓を与えてくれるように思います。

 まず、世の中にある殆どのランキングが恣意性を免れない中、ランキングを作る側には、高い透明性と規律が求められるということです。

 国際機関では、審査をされる各国から、「事実誤認である」「我々の制度を理解していない」といった抗議が日々寄せられています。国際機関による個別国に関する公表する報告書は、その殆どが、そうした話し合いを経て、文章などについて合意が行われた上で公表されています。

 しかし、ことランキングとなると、一国の順位を上げることは、どこか別の国の順位を下げることを意味します。「交渉力のある大国がランキングでも有利」「交渉力のない貧しい国はランキングでも不利」となってしまっては、ランキングがむしろ誤った情報やガイダンスを示すことになってしまいます。ランキングは、作成の計算式やウェイト付けなどによる操作可能性が大きい以上、作成方法などは極力透明にする必要があります。もちろん、「俺の主観によるランキング」などがエンタメとして存在しても良いわけですが、それを権威があるように装うことはよろしくないということです。あわせて、「評価をする側が同時に有料のアドバイザリーサービスも提供する」といった利益相反のおそれのある行為については、自らを律して控えていく必要があるでしょう。

 また、情報を受け取る側も、「ランキングはあくまで相対的なものであり、恣意性を免れ得ない」という点を、十分認識していくことが必要です。

「デジタル化」「グリーン化」が叫ばれる中、「DX度ランキング」や「脱炭素化ランキング」など、世の中にはますます多くのランキングが溢れるようになっています。しかし、デジタル環境やグリーン環境は、本質的に定量的な評価が容易ではありません。また、スポーツやエンタメ、グルメなどのランキングとは異なり、これらの分野でのランキングを絶対的なものとして受け止めてしまうと、デジタル化、グリーン化などの取り組みを間違った方向に走らせるリスクもあります。

 かつて漫画家の東海林さだおさんが、「ラーメン屋ランキング」について、美味いラーメンと不味いラーメンの違いは確かにあるけれども、どちらも美味いラーメンをこっちは何位、こっちは何位と細かく順位付けすることにあまり意味はないのではないかと書かれていたのを思い出します。「ランキング」を見る上では、そのような客観的な視点が大事だと感じます。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。