品質向上を早期に実現するための処方箋

 品質向上のためには、標準や基準を正しく設定し、それを順守する(させる)ことしかない。これは日本であろうがタイであろうが共通の取り組みである。しかし、現場作業者のスキルやマインドを、日本の製造現場と同じように捉えてはならない。これは自社だけではなくサプライヤーも含めて共有することが大切である。

 このような環境下でよい品質を実現するためには、サプライヤーとの取引開始前に品質条件が守れるサプライヤーかどうかをしっかりと査定し、取引条件にサプライヤーと合意した品質基準を盛り込んで取引を開始すべきである。

 もちろん、取引開始後も定期的に品質監査を行い、サプライヤーの品質管理レベルを向上させることが重要だ。技術的な改善については自社の技術専門家をサプライヤーに派遣、常駐させることが必要な場合もある。

 そして自社の品質管理における注意点は、現場作業者に守るべき標準、基準を伝える努力を怠らないということだ。文書は英語のみならず、極力現地の言葉にする、絵や写真などを活用して分かりやすくする、伝えるポイントを絞った簡潔なものにするなど、文書化の工夫が必要である。

 また、文書化だけではなく、直接口頭で説明し理解してもらう努力をする。既に標準、基準を文書だけではなく、動画の活用や多言語対応を進めている企業も多いのではないだろうか。このように考えると、「タイだから」という特別なことが求められるわけではないが、より広く基本を徹底した取り組みが求められるということを理解していただけると思う。

 今回ははタイの製造拠点における品質向上について、その課題と処方箋を説明してきた。次回は「生産管理」について、具体的事例を交えて整理する。

コンサルタント 角田賢司(つのだ けんじ)

生産コンサルティング事業本部
プロセス・デザイン革新センターセンター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 シニアコンサルタント

IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品等、多業種で収益向上の支援を実施。現場の生産性向上、品質向上、調達コストダウンや在庫削減等複数テーマを同時に展開、マネジメントの支援を行う。近年はタイ・中国等の製造拠点支援として生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を実践