アフターデジタルのDXで問われることとは?
私は2019年、藤井保文氏との共著で『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP)という本を発表しました。その中で述べたのは、これまでのデジタル(ビフォーデジタル)とこれからのデジタル(アフターデジタル)の違いです。
ビフォーデジタルにおける「デジタル」とは、リアルに対する“発注端末”のようなものでした。すなわち、製品単体が“点”でのみお客さまをサポートし、そこに企業の価値が問われていた。しかし、アフターデジタルにおける「デジタル」は、お客さまのリアルな生活を全て包み込みながら、ずっと寄り添ってサポートしていきます。お客さまのバリュージャーニーという“線”を踏まえつつ、最初から最後までサポートできるかどうかが、アフターデジタルのDXでは問われていくでしょう。
東南アジアの配車サービス大手のGrabは2年前にコンセプトビデオを発表しましたが、そこに描かれていたアフターデジタルの世界は既に実現していますし、さらに面白いのは、その世界においてはGrabというサービスプラットフォームが中心となるため、大手の自動車メーカーすらGrabの下請けになってしまうこと。ユーザーの利用体験の全てを支えるプレーヤーが業界で力を持つようになるのです。
日本の中では実感しにくいかもしれませんが、ビフォーデジタルからアフターデジタルへの変化は世界各地で起こり続けています。
93%のリアル産業にDXの余地が残っている
さて、ここで強調しておきたいのは、これから本格化するアフターデジタルの世界において、日本はその覇者になれるということです。
これまで私たちは、デジタルの世界をGAFAやGAFAMと呼ばれるビッグテックの脅威として捉えがちでしたが、もはやその考え方は古くなっています。DXは「2回戦」に突入し、しかもそれは1回戦よりずっと大規模な戦いとなるでしょう。
確かにゼロベースから立ち上げなければいけなかった1回戦は、フロンティアスピリッツあふれるアメリカに大敗を喫しました。しかし、1回戦で起きていたことを端的にいってしまえば、インターネット上の小売り・広告の革新でしかなく、事実、GAFAのGDPカバー率はわずか7%にすぎません。
つまり、不動産、金融、製造、教育、小売りといった「残り93%」のリアル産業にはまだまだDXの余地が残っているのです。しかも、リアル産業ということにかけては、そのアセットを持つ日本がリードできる可能性があります。このときに日本企業に求められるのは「AI活用」と「戦略」。すなわち、AIを上手に使いこなしながら“戦わずして勝つ仕組み”です。