土屋氏が「ホウレンソウ撲滅運動」を行っている理由
藤森:いずれにしても、企業のコミュニケーション施策は、スピード感が重要ということですよね。ただ、規模の大きい企業ほどスピード感が遅くなる実情もあります。新たな施策を行う場合、特に大企業はROIの判断基準がマネタリーに寄りすぎるからです。まだ黎明期のプラットフォームやコミュニティに投資するとなると、社内審査が通りにくい。
土屋:僕も同じ課題を感じていて、その解決のために「ホウレンソウ撲滅運動」を最近提唱してるんです(笑)。ピラミッド型の組織になると、新しい施策を提案しても、下から上へと意思決定フェーズが進むうちに、どこかから反対意見が出て止まってしまう。時間がかかるだけでなく、有望な意見が消えることもある。それを生むのがホウレンソウの文化だと思うんですよね。
当時の「電波少年」が、曲がりなりにも従来のテレビにないものを持っていたとするなら、それはホウレンソウをせず番組を作ってしまったからだと思うんです。もちろん、失敗も生むこともありますが、鋭角的に刺さる番組が生まれた根底には、社内での承認義務を無視したことが大きかったのかもしれない(笑)
藤森:それはまさにポイントですよね。ホウレンソウの全面撤廃は難しいかもしれませんが、その要素を取り入れる必要はあると思います。
土屋:たとえば「殺しのライセンス」のようなものを、社内の何人かに与えてもいいんじゃないですかね(笑)。つまり、「お前はホウレンソウをしなくていい」という枠をいくつか作ることが大事だと思うんです。
企業の公式Twitterを見ても、かつて話題になったNHK広報局のアカウントや、今も人気のあるSHARPの公式アカウントは、ストライクゾーンギリギリか、もしくは、はみ出ている言動ばかりですよね(笑)。もしかすると、“中の人”はライセンスを持っているのではないかと。もしくは勝手にやり始めたらファンがついて、企業も後からライセンスを認めてしまったのかもしれない。
髙荷力:だとすると、どうやって企業はライセンスを与えるかが問題ですよね。企業の規模が大きくなれば、承認フェーズはどうしても増えてしまう。その中で、特例的にスピーディな意思決定をどう維持していくのか。
岩佐:僕が思うのは、規模の大きな会社こそ、そのライセンスを持った人材が集まる部署を設置しておくべきではないでしょうか。それを組織の中に組み込んでおいて、状況やシーンに応じて投入する。君たちの部署は、いったん自由に進めていいよと。ネイビーシルズのような“特殊部隊”を企業のどこかにプールしておくべきと言うのが僕の考えです。
藤森:非常に参考になると思います。新しいコミュニティやプラットフォームに早く乗ることも、ホウレンソウ撲滅運動も、共通しているのはスピーディに動く体制ですよね。企業はその体勢を作らないと、ファンに深く刺さるエンゲージメントを生み出すのは難しい。
特に大企業は、コアファンを作ることが求められます。ベンチャー企業のように、黎明期のニッチ市場に力を注ぐのは大企業には難しいので、自社のコアファンをどれだけ増やせるかが重要。プラス、顧客とダイレクトにつながる接点を持つことが大切になるでしょう。
今までは、顧客との接点を量販が握っており、特にメーカーは顧客と直接つながれませんでした。今後は、顧客とダイレクトな接点を持ち、その声に対してタイムリーに対応する、柔軟に変化させる企業姿勢が求められます。それらを可能にする組織の構築が、これからのファンエンゲージメントにおける「企業のやるべきこと」ではないでしょうか。
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企業のファンエンゲージメントをテーマに交わされた今回の議論。なかでも興味深かったのは、これらを生み出すポイントとして「人事施策」と「組織体制」のあり方が言及された点だ。記事にも出てきたように、1つの領域に熱中する人材を育てる人事施策と、ホウレンソウをしなくていい特殊部隊的な部署を置くことは、ファンエンゲージメントのヒントになるかもしれない。ファンエンゲージメントの鍵は、実は“企業内部”の振る舞いにある。