※本コンテンツは、2020年11月17日に開催されたJBpress主催「第7回 DXフォーラム」の基調講演「DX(デジタルトランスフォーメーション)とその推進戦略」の内容を採録したものです。

南山大学
理工学部 ソフトウェア工学科 教授
青山 幹雄氏

DXで事業構造を根本から見直す、目指すは顧客起点での価値創出

 DXに至るには、一般に3段階あるといわれています。初めに、電子書籍やデジタルカメラのようにアナログのものがデジタルデータ化するデジタイゼーションの段階。次に、eコマースやネット銀行のようにデジタル化したデータに基づいて業務や製造などのプロセスをデジタル化するデジタライゼーションの段階。その後にあるのがDXの段階です。DXに至ると、単なる効率化に留まらないデジタル技術を活かしたビジネスモデルが普及するなど、社会活動の変革につながります。

 日本におけるDXの進展は他国と比べて立ち遅れており、社会を変革させるような価値を創出できるかどうかが大きな課題です。

 経済への影響が大きいことから、2018年以降は政府も対応に本腰を入れています。経済産業省での「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の設置をはじめ、DX推進指標の策定やデジタルガバナンス・コードの策定に向けた検討など、さまざまな施策が打ち出されています。DXを進めようという機運が社会全体で高まっていると言えるでしょう。

 DXを進めるに当たっては、前提として、デジタルトランスフォーメーションのデジタルの部分の意味を理解する必要があります。技術的には、主にストックデータの処理・管理に終始する状態ではなく、AI/機械学習などの高度知的処理技術によってリアルタイムデータやフローデータの分析・予測・判断が行える状態を指します。

 技術の進化によって目的も進化します。生産性向上に留まらず、顧客との接点を増やすことによって、顧客に新しいサービスを提供したり、顧客の困り事を解決したりといったことが可能になります。

 DXによって事業がどのように変わるかについては、顧客起点での価値創出がポイントになります。例えば製造業の場合、製品開発をサプライヤーや販売店との連携によって行ってきました。今後は、スマートフォンなどを通じて顧客が製品をどう利用しているかといった情報を収集し、サービスや製品の開発を行うようになります。

 つまり企業は、この変化に対応するために、過去に成果を上げてきた事業構造を変革していかなければなりません。これまでは、営業や研究・開発など機能別の部門が、ERPなどの情報を使ってそれぞれに事業を進めるのが一般的でした。これからは、顧客のニーズに柔軟に対応できるよう、スマートフォンなどによる顧客のデータを活用して組織横断的な製品・サービスを提供する事業構造であることが重要になります。