近年、GAFAなど国際的に活動する巨大デジタル企業への課税を巡る問題は、ほぼ毎日のように報じられています。さらに現在、コロナ禍の中で多くの国が財政赤字を拡大させる中、先行きの税収確保という要請もあり、巨大デジタル企業への課税を巡る問題は、今後とも大きな国際問題であり続けるでしょう。

 デジタル時代の課税政策を考える上では、国際的な協調が不可欠になります。現在、デジタル化と課税の問題は、とりわけG20やOECDなどの国際機関において、最重要なアジェンダの一つとなっています。

解決への道のり

 しかし、その具体的な解決は容易ではありません。

 例えば、課税の根拠となる「恒久的施設(PE)」を緩く解釈し、「倉庫などがあればPEがあるとみなす」という方法もあるでしょう。また、「ある国の人々にモノやサービスを販売している企業は、その国にPEを持つか否かにかかわらず、一定の税負担を負う」といったルールを定める方法も考えられます。さらに進んで、「グローバルに活動するデジタル企業が大きな利益を上げている場合、それは各国で得たデータの活用に基づいているとみなし、その一部を課税を通じてデータの入手先である国々に配分する」といった方法もあり得ます。しかし、これらの方法はいずれも、企業の所在国から消費国などへの税の移転につながります。このような「税の取り合い」という性格の強い案件について、国際的合意は簡単ではありません。

 デジタル化の下で国際的協調が求められる分野は課税だけではなく、例えば金融規制もあります。この点、金融規制の分野では、バーゼル銀行監督委員会が基本的な枠組みについて合意し、加盟国がこの合意を国内法化して導入する形で国際的な調和を確保する枠組みが作られてきました。経済のデジタル化が進む中、税制の分野でも同様の取り組みを進めていく必要があるでしょう。

 もちろん、税制は各国の主権がとりわけ強く意識される分野であり、この中で国際的な調和を進めることは、金融規制以上にハードルの高い作業です。しかし、このような取り組みを進めないと、経済のデジタル化に伴い、財源の縮小や不平等感の醸成、競争上の不公平などの問題がますます大きくなりかねません。この面での議論が強化され、その中で日本が主導的な役割を果たすよう期待したいと思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。