連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第6回。ITを通じた経済発展にひた走る中国は、通貨のデジタル化でも最先端を走っているようにみえる。中国の狙いは何なのか。デジタル通貨の問題に深く関わってきた元日銀局長・山岡浩巳氏が解説する。
前回は、デジタル化が社会全体のセキュリティと監視の問題に関わることを取り上げました。今回は、この問題で世界から注目を集めることの多い中国のデジタル人民元について、ご紹介したいと思います。
中国のデジタル人民元
現在、金融界で大変な話題となっているニュースの一つが、中国による中央銀行デジタル通貨(デジタル人民元)の試験的発行の開始です。デジタル人民元はDigital Currency/Electronic Payments(DC/EP)と呼ばれていますが、本年4月、中国は、深圳、蘇州、雄安新区、成都で、テストとしての発行を開始しました。中国は、このテストはあくまで研究開発の一環であり、今後正式に発行するかどうかは未定であると強調しています。もっとも、これまで中央銀行デジタル通貨の試験的発行を行ったのは、経済規模の比較的小さな国(ウルグアイ、カンボジアなど)でした。この中で、経済大国である中国が試験的発行を開始したことは、世界の注目を集めました。
このような中国の動きについては、「ドルに代わる基軸通貨となり、通貨覇権を握ることを目指している」といった報道もされましたが、さすがに、人民元が直ちにドルに取って変わることは無理でしょう。
例えば、全世界の外国為替取引のうち、米ドルを対象とするものは全体の9割弱を占めていますが、人民元を対象とするものは全体の4%程度に過ぎません。このような基軸通貨としてのドルの優位性は、米国が第二次大戦後に長年かけて築き上げてきたレガシーであり、一朝一夕でひっくり返せるものではありません。
(注1)外為取引は国際決済銀行調べ(データは2019年4月)。なお、取引の片側が当該通貨であればカウントされるため、合計値は200となる。 (注2)外貨準備は国際通貨基金調べ(データは2019年第2四半期)。
また、中国はなお資本規制を維持しています。投資家からすれば、資本規制がある国への投資は、思い通りに回収できなくなるリスクがあるため、その分投資がしにくくなるわけです。この面からも、人民元が直ちにドルに代わる基軸通貨となるのは難しいといえます。