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 連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第4回。日本が決済のデジタル化を進める中でのドコモ口座への資金流出事件は、セキュリティの大切さを再認識させた。事件の本質を、第一人者である元日銀局長・山岡浩巳氏が根本から解説する。

 顧客の知らない間に本人名義のドコモ口座が作られ、ここに銀行預金が引き出されて盗まれた事件が、大きな関心を集めています。この事件は、デジタル化社会におけるセキュリティとプライバシーのあり方などについて、多くの論点を提供しています。まずはこの事件の本質について、金融の原点に立ち返りながら、一つひとつ考えていきたいと思います。

決済を「安く済ます」には?

 A、B、Cの3人がそれぞれの間で、頻繁にお金のやり取りをしなければいけないとします。これを一本一本銀行送金で処理すれば、その都度手数料がかかります。では、この手数料を節約するには、どうすれば良いでしょうか?

 すぐに思いつく方法は「ネッティング」です。A、B、Cの3人のお金のやり取りを帳簿の上に記録しておき、特定の時点を決めて(例えば1日に1度、1週間に1度など)、その時点で差引額だけを銀行送金で決済する、という方法です。

 この方法は、安上がりにはなるのですが、決済の時点で3人のうち誰かの預金残高が不足していたら決済ができず、それまでの取引をどうするのかという問題になってしまいます。取引の「巻き戻し」をしなくてはいけなくなるわけです。