製品の加工には先行作業という要素があります。これは、その作業を終えていないと次の作業に移れない作業のことを言います。ここで考える基本要素も、同じように先行要素として位置づけなければならないものがあります。例えば、ある製品の加工面を綺麗に切削してからでないと同じ面に穴を明けることができないことがあるかもしれません。基本要素の間にこのような先行関係があると、「平行生産方式」や「同時生産方式」は成り立ちません。従って、こうした制約条件を外すか、前提として置くことで、何とかこの「瞬間加工生産方式」へ近づけられないかと考えていきます。これによって、“相当コンパクトで高効率の生産スタイル”に近づけるのではないでしょうか。

「瞬間加工」の実現に向けて

 “相当コンパクトで高効率の生産スタイル”を実現するために、「瞬間加工生産方式」を組み立てるための「思考の経路」をご紹介しました。

 残念ながらこの「瞬間加工生産方式」を実現している企業はどこにも存在しないと思います。しかし、部分的には実現しており、とても効率的なモノづくりを実践している企業はあります。各企業には異なる考え方やポリシーもあるでしょうし、異なる最優先事項もあるでしょう。ここまでお話してきた考え方が万能であるなどとは思ってもいませんが、多くの企業をご訪問させていただき、モノづくりの現場を見せていただいた経験では、この「思考の経路」が大いに役立っています。

 一方、現場を知れば知るほど制約条件も見えてきて、できないことの理由が次から次へと浮かんでくることもとてもよく分かります。私自身、経験を深めれば深めるほど、可能性が小さく思えてきます。しかし、できない理由に同調してしまっては私の仕事になりませんので、「日本の先端4畳半工場」を夢見て頑張っています。ソーシャル・ディスタンスを要求され、通常の仕事から少し距離を取れるこの瞬間をチャンスと捉え、少し冷静に検討するだけでも良いかもしれませんね。

 また、今回の連載は、モノづくりの現場を想定して話を進めさせていただきましたが、「生産スタイル」を「ビジネスモデル」と読み替えてもその考え方は通用すると思います。さらに、「自社の製品」は「自社の提供するサービス」と読み替えても、全てではありませんが、役立てることは多いと考えています。

 私が今の仕事を始めた若かりし頃、先輩たちの仕事内容を見て、「100年も前に確立された方法論を使って、なんで今、仕事になっているのだろうか?」と、生意気に考えていたことがありました。私にとっては本当に素直で素朴な疑問であったのです。しかし、自分でその現場で仕事をしてみて、当たり前の正しい理論を実務で実現することがいかに難しいかを知りました。同時に、当たり前の考え方を見失うことなく、成果が得られるまで仕事としてやり通すことの大切さを学びました。

 リモートワクークなどの制約の条件下で、思うように仕事ができない今を、異なる角度から仕事を見直し「楽しむ時間」として過ごしていただく一助になれば幸いです。

◎宗 裕二
日本能率協会コンサルティング 品質経営研究所所長/プリンシパル・コンサルタント
モノづくり企業の支援を中心に、現場力の重要性を強く意識し、専門領域である「品質」を中心視座として、日々活動している。
モノづくり企業に求められる品質構築機能は、「最大の価値と、最小のリスクを、最短の時間で創出できる変換機能を構築する」ことであり、「結果としてミニマムコストのモノづくりが可能となり、最高の利益を獲得出来る」ことになると考え、「品質経営」として提唱している。その為に、「従業員の一人一人が、無意識のうちに、顧客価値を予見した行動を取れる文化を築く」ことが重要課題と位置づけ、その推進に力を入れている。JMACサイトでもコラムを執筆。