また、顧客が企業に求める期待も変化をしているはずです。それに伴い、自社の製品に対する顧客の要求は、必ず高いレベルになっていると考えるべきですし、品質保証しなければならないと考える範囲も広くなっているはずです。自社の製品の付加価値を考えるとき、その製品に対する社会的ニーズの変化も同時に考えなければならないということになります。

 さらに、品質保証についても、顧客の期待する範囲やレベルと、自社の品質保証システムの在り方も見直すべきでしょう。SWOTなどを使い、自社製品の強み弱みを解析する方法も良いでしょうが、顧客の生の声を科学的に解析し、市場のニーズを構造化し理解することも有効であろうと思います。たった1件でもクレームがあれば、その情報を基に、市場全体のニーズを探ることは可能です。世間ではこうした言語データに対する多くの解析手法が紹介されています。顧客からのクレームやコンプレインなどを、その背景とともに解析し、多くの言語データを蓄積することができますが、あまり実行されていないのが実態ではないでしょうか。ぜひ、総合的なクレーム解析に挑戦をしてみるべきでしょう。

 その際、1つだけご注意いただきたいのは、多くの情報は歪められている可能性があるということです。言葉(母国語または現地語)で頂戴することが多いクレームやコンプレインですが、顧客の言葉を正確にその背景と共に蓄積する必要があります。しかし多くの場合、クレームなどを受け付けた自社の担当者の言葉に翻訳されて蓄積されていることが多いようです。穿った見方をすれば、自社の都合を忖度した言葉に変換されている可能性があるのです。もちろん、恣意的に変換しているのではなく、無意識のうちに変換してしまっている可能性があるのです。最近では、顧客からの電話などを録音するシステムが一般的になってきましたが、目的が異なりますので、顧客のニーズ解析に活用されていることは稀であろうかと思います。

作業や仕事の可視化・リスト化

 モノづくりが得意と言われた日本の製造現場ですが、自社の製造技術の素晴らしさを自覚している方は案外少ないように感じます。企業では役割分担をして業務に臨みますから、全体としての製造技術についてはあまり意識されないのかもしれません。自社の工場全体で、モノづくり技術の良さを評価し、企業として守るべき技術をしっかり守っていく姿勢は、もっと強く持っても良いと思っています。

 私自身は職業柄、守秘義務があり、守秘義務契約もしっかり結んだ上で現場に入ります。さらにお付き合いも比較的長いので、特段、機密事項として取り扱う製造技術を意識しないのかもしれません。しかし、海外工場では、現地採用した社員に、特に深く考えることなく工程や技術を公開してしまっていることもありそうです。企業ポリシーとして現地採用者を育成することも重要ですが、性善説を思考の基本に置く日本人の方が珍しいと考え、守るべき工程情報や、技術情報はしっかり整理しておくことも必要だと思います。

 製造技術の付加価値を再評価し、その価値をさらに高めるためには、まず、現在の作業や仕事を文章に起こし、可視化・リスト化することが必要です。全ての作業や仕事を可視化・リスト化する必要はなく、「必要な作業や仕事」だけを可視化・リスト化すれば十分でしょう。