地元には既に良い商品がたくさんあります。商品づくりの経験の乏しいスーパーが下手にPB商品に力をいれるよりも、いま地元にある魅力的なそのままの商品をきちんと来店客に知ってもらい購入いただくというスーパーの原点に立ち返り勝負していくこととしました。

 最近の食品スーパーでよく見かける「農産物直売所コーナー」。青果売り場の一角を生産者に開放している人気のあるコーナーです。A社にとっては集客が見込めるものの、販売手数料は意図的に低く設定しており、直売所コーナーでの利益はトントンです。

 その中でもひときわ人気の商品が時々出てきます。以前は直売所コーナーの個々の商品の売れ行きまで気にしていませんでしたが、この数年は直売所コーナーでもすぐに品切れになるような人気商品をチェックして、その生産者の方々との直接取引を打診しています。直接取引になれば生産者にとっては商品を買い取ってもらい在庫が残らないことと、1カ所に納品すれば全店舗に配荷してもらえることのメリットがあります。

 隣町で採れる梨は午前中に完売してしまい入荷の問合せが多いので、次の入荷予定をブラックボードで案内しています。ゴボウとブロッコリーをつくってもらっている生産者には、冬に春菊も栽培してほしいとの要望を伝えて新たに取り組んでもらっています。

 5年前に1人の生産者から始めて今では20以上の生産者との取引になり、全てが売場づくりにはなくてはならない仕入れ先になっています。なによりも生産者側が満足してくれていることが継続要因だと考えます。

 同様に、地元メーカーとの取引も増えています。地元メーカーから仕入れているこだわり卵はこの商品目当てに来店されるお客様も少なくありません。また、地場のきのこメーカーの社長は「東京の複数の百貨店さんと取引をさせてもらっています。ブランディングの観点からリアル店舗は百貨店しか取引させてもらっていませんが、A社さんは特別です。小さい時から馴染みのあるスーパーですし一緒にこの町を活性化していきたいのでぜひ今後も取引させてもらいたいです」と、おっしゃっておられました。卸値も百貨店とは全く違いますが、地元の要であるスーパーに活気づいてもらいたいとのことでした。これを利用しないわけにはいきませんし、社員は「応えよう」という気持ちになります。

 A社社長の発案で、生産者や地元メーカーとの交流会を定期的に開催し、生産者通しのつながりもつくっています。生産者の商品に対する想いを改めて伺うことができますし、生産者同志でのビジネスの場にもなっているようです。そして何よりも皆で町を盛り上げていこうと気持ちが一つになります。売場においても、単に地産地消だけをアピールするのではなく、無農薬はもちろん生産者の方々の土壌へのこだわりといったこともPOPで訴求するようになりました。