主力の複合機だけでなく、ヘルスケアや3Dプリンターなどの新規事業も多く展開しているリコー。2019年、新規事業の創出を目指す社内向けと社外向けの2つのプログラムを実施し、それぞれから選抜されたチームを最終的に同じ土俵で審査する新たなオープンイノベーションを開始した。
当プロジェクトで先陣を切る、イノベーション本部の小笠原広大氏、内海知子氏、経営企画本部の大越瑛美氏に、運営の設計思想や生み出したい価値、社内のサポーター制度などを聞く。
最後は同じ土俵に上がり、代表や役員の前で発表
リコーは、従来の枠にとらわれない新規事業を創出するため、まず2019年2月から社内向けの起業支援プログラム「RFG CHALLENGE」を開始。その後に、スタートアップ企業などを支援する主に社外向けの「RICOH ACCELERATOR 2019」を開始した。
社内の「RFG CHALLENGE」と社外の「RICOH ACCELERATOR 2019」、具体的に何がどう違うのだろうか?
● RFG CHALLENGE(リコーファミリーグループ チャレンジ)
国内のリコーグループ全社員約3万人を対象とした、社内向けの起業支援プログラム。「ルールに縛られない挑戦の場がほしい」などの社員の声に応えるプログラムとして始まった。
● RICOH ACCELERATOR 2019(リコーアクセラレーター 2019)
スタートアップ企業や起業家をリコーが支援するアクセラレーター・プログラム。社員はゼロからイチを生み出すマインドを社外から学ぶと同時に、リコーのリソースを社外企業へ開放。相乗効果を生み出す協創の場を通じて、エコシステムを創造する。
「それぞれ別々の考えで始まったプログラムですが、現在進めているプログラムが融合後で初めての試みであり、初の統合バージョン。2020年2月に結果が出ます」(小笠原氏)
スタート時には「RFG CHALLENGE」と「RICOH ACCELERATOR 2019」は別々の選考を経て、参加チーム数がまずは絞られる。その後は約4カ月間の「アクセラレーター・プログラム」期間に合同で入り、ピッチ(簡易プレゼンテーション)や検証を経て最終的にはリコーの代表や役員の前で発表。新しいリソースの調達の機会となる。
小笠原氏は当プログラムの事務局リーダーとして全体の設計や発表などを、大越氏はサブリーダーとして小笠原氏をバックアップし、内海氏はイベントの設計や会計などバックオフィスの周辺業務を担当している。コアメンバーはこの3名を含めた全5名だ。
今回インタビューした3名とも「本職」があり、プログラムの運営には組織体がなく、また、経営層からのトップダウンではなく主体的に運営している。統合バージョンとしてのプログラムの運用や設計も、コアメンバーを中心に行ってきた。
社内と社外は、争うよりも「みんなで良くなる」協創が根本思想
社内向けと社外向けの両プログラムをなぜ同じ土俵で戦う枠組みに変更したのだろうか。そう質問すると、丁寧に訂正された。
「最終的に同じ場でプレゼンテーションを競うものの、私たちは『戦う』という言葉を使わないようにしています。あくまで、争うのではなく、協創。みんなで良くなろう、という思想が根本にあります。
また、困ったことがないかを聞いてもらうなど、社内外に関わらず他チームでも互いに助け合う空気感を事務局側も醸成するようにしていました。一方、単なるアイデアコンテストに留まらないよう、実装まで持っていくこともしっかり重視しています」(大越氏)
「社内から5チーム、社外から8チームがエントリーし、アクセラレーター・プログラムの期間中は計13チームが月に一度集まったりオンラインで参加者同士が連携したりします。
互いに協力し合い情報交換する場を設けることで、自然とネットワークが生まれています。最初のチームの選考時にも、他チームと連携ができそうかどうかを判断基準のひとつとしているほど『いい関係性』にはこだわっていますね」(小笠原氏)
「もともとリコーはいい人が多く争いのない社風で、みな性善説で動いています(笑)。そうしたカルチャーも、この考えに影響しているかもしれません」(内海氏)
例えば、社外のチームにアイデアだけを盗まれるなどの懸念は持っていない。社内と社外の叡智を集めてお互いを認め合い協創することで、これまでになかったイノベーションを起こせる可能性があるかどうかだけを純粋に考えている。そのための統合バージョンだ。