オープンイノベーション取り組み例

 実際に、成果を生み出しているオープンイノベーション事例も出てきている。2019年3月には内閣府による第1回日本オープンイノベーション大賞の授賞式が行われた。受賞した事例のなかからベンチャー企業へのスピンアウトや企業の水平連携の事例を紹介しよう。

ミツバチプロダクツ
 パナソニックからのスピンアウト事例だ。パナソニックで市場規模が小さいという理由でお蔵入りしたホットチョコレート事業を社外事業として独立させた。パナソニックのスチーム技術をベースにホットチョコレート機器・サービスを独自開発。他社との連携も独自の判断で行っている。パナソニック側もスピンアウトを支援するなかでチャレンジ文化が生まれる効果があった。

●基礎研究段階の産学共創
 中外製薬、大塚製薬という創薬分野の企業とダイキン工業の情報分野の企業が、大阪大学と基礎研究から応用研究までシームレスに連携し、新たな価値の創出に取り組む。大阪大学が研究活動費の提供を受けることで、長期的な基礎研究を安定的に推進する仕組みを確立した。

スマート治療室SCOT
 自動車部品製造における世界トップレベルの自動化技術を治療室に導入し、医療機器をIoT化するためのプラットフォームを構築する。手術を映像で記録するほか、手術のナビゲーションや高精度な手術に必要な情報・画像の提供により、治療効果の向上とリスク低減を目指す。これまで34例の導入実績があり、AI搭載の高機能版が東京女子医大に導入される予定だ。知財戦略を明確化し、「知財合意書」をもとに自動車部品メーカー、医療機器メーカー11社5大学が連携し、シームレスな開発を実現した。

日本企業は社会をアップデートできるか

 日本オープンイノベーション大賞での受賞事例を3つ紹介したが、これらの事例からオープンイノベーションを実現するヒントが見えてくる。 

 ひとつはミツバチプロダクツの事例や富士フイルムのOpen Innovation Hubの取り組みのように、市場化されなかった事業や、製品開発を支える基盤の技術をパートナー企業と共有する必要性だ。これらが一般的に流通するようになれば、イノベーションが活性化するだろう。今後の脱バリューチェーンが求められる。

 もうひとつは企業が水平連携するための仕組みの確立だ。スマート治療室SCOTのように知財戦略を練ること、基礎研究段階の産学共創の事例のように大学の研究活動費を民間企業が提供する、といった方策が参考になるだろう。

 前述したように、研究開発拠点が増え、ロールモデルと成り得る施策は少しずつ芽が出始めている日本。それらを上手く取り込み、日本の社会を大きくアップデートするイノベーションが今後生まれてくるのか、これからが正念場だ。