オープンイノベーション重視の研究開発拠点が増加

 日本では垂直連携が多く、オープンイノベーションの活動実施率は低く、特に起業家・スタートアップとのオープンイノベーションが進んでいないとされている。

 内閣府の「平成27年度年次経済財政報告」によると、研究開発効率は、アメリカ、EU15カ国と比較して非常に低い。ベンチャー企業との協業が不足しているということが指摘されている。日本ではベンチャー企業よりも歴史ある中堅企業と連携する傾向が根強く、また、大企業からスピンオフして起業し、連携する事例もアメリカと比較して少ない。

 昨今では日本企業の成長が停滞している。中国、アメリカでは、2000年から2017年で時価総額上位企業の顔ぶれが様変わりした。中国では2000年の1位がペトロチャイナ、2位が中国商工銀行だったのに対し、2017年の1位はアリババ、2位はテンセント。アメリカでは2000年の1位はマイクロソフト、2位はゼネラル・エレクトリックで、2017年の1位はアップル、2位はグーグルとなっており、それぞれ成長力著しい企業が上位にランクインしている。それに対して日本では上位3社トヨタ自動車、NTT、NTTドコモは2000年と顔ぶれがまったく変わらない。新しい企業の成長を促し経済を活性化させるには、既存の枠組みの中で規模と効率を追求するのではなく、既存の枠組みを超えて社会をアップデートすることが求められる。

 日本が抱える課題を解決するべく、昨今ではオープンイノベーションを重視した研究開発施設を設立する企業が増えている。その一例を紹介しよう。

●島津製作所
 2019年6月に医薬分野の研究開発拠点「ヘルスケアR&Dセンター」を設立した。島津製作所は中期経営計画において、ヘルスケア分野を最重点分野と位置付けており、計測と医療の融合による新事業を創出し、特色ある新製品開発を強化するとしている。その足掛かりとして、オープンイノベーションを促進するべく約93億円を投資して設立した。

 ヘルスケアR&Dセンターは、京都市にある本社三条工場の敷地内にあり、地上4階建ての1階部分は、大学や他社と協業するフロアになっており、ノーベル賞を受賞した田中紘一シニアフェローの研究室も入る。新拠点により、がんの早期発見や認知症の原因を探る技術開発を進め、早期の事業化を目指している。

●富士フイルムホールディングス
 2014年に同社が設立した「Open Innovation Hub」ではパートナー企業向けに自社の技術を外部へ提供する取り組みを行っている。富士フイルムグループが開発した優れた材料や基盤技術をパートナー企業に提案し、他社の課題やアイデアを自社技術と積極的に結びつけている。

 富士フイルムのかつての主力製品であるカラーフィルムは、非常に高度な技術が必要だ。カラーフィルム開発で培った粒子形成やナノ分散等の世界トップレベルの技術と、それらを活用した材料・製品・サービスを外部の企業に提供し、新たな価値を「共創」することを目的としている。

 オープンイノベーションのマッチング促進を目的とした企業も出てきた。epiST(エピスト)では、企業のニーズを把握して適切なマッチングを行うとともに、アクセラレーターとして大学や研究者発のスタートアップへの投資を開始。ベンチャーとの連携が不足していると指摘される日本において、「産学連携支援事業」とのシナジーによって投資先の発展をサポートする「投資育成事業」でオープンイノベーションを促進している。