採用している企業の例
多くはないが、日本でも既に「カスタマーサクセス」のポジションを設け、運用している企業も存在する。そうした企業において、カスタマーサクセスはどのような業務を担当し、効果を発揮しているのだろうか。
●SmartHR
メルカリやバンダイナムコエンターテインメント等、多数の企業で採用されるクラウド労務管理ソフト「SmartHR」を展開するスタートアップ。継続率99.6%を誇る同社のサービスを支えるものに、カスタマーサービスチームの存在がある。
同社のHPではカスタマーサポート担当者によって定期的に「サポート実績の報告」として、問い合わせ内容やチャットサポートの満足度分析が更新されている他、代表取締役の宮田昇始氏が2018年12月11日に更新した同社HP内のブログ記事に、SmartHRのカスタマーサクセスチームの取り組みがまとめられている。
それによれば、同社のカスタマーサクセスチームは立ち上げ時の3名から、1年で12名にまで増えたのだという。現在、同社のカスタマーサクセスチームは以下のように複数の職務に分業・専門化されている。
・オンボーディングチーム
...サービスの早期立ち上げをサポート
・エンタープライズCSMチーム
...従業員規模が数千名の顧客を担当
・SMB CSMチーム
...従業員規模が数十〜数百名の顧客を担当
・テックタッチチーム
...顧客自身がサービスの活用度合いを深められるコンテンツの企画を担当
・オペレーションチーム
...ユーザーの活用データを元に適切なサポートタイミングの企画・設計を担当
顧客のニーズを追い続け、それをサービスの質の向上に反映し続ける姿勢が、前出の継続率99.6%といった数字に結び付いているのではないだろうか。
●Sansan
データ化した名刺をクラウドで一括管理できるサービス「Sansan」を展開。同社は2012年に国内企業で初めてカスタマーサクセス部を創設し、具体的な取り組みを進めてきた。「お客様の成功にむけてSansanの価値を届けLTV(顧客生涯価値)を最大化すること」を目標に様々な施策を行う。現在、同部署には40名以上が所属。同社のカスタマーサクセスマネージャーの採用情報を見ると、機能別に次の6グループに分かれているという。
・Enterprise CSMs
...エンタープライズ契約企業の導入支援、およびアカウントマネージメントを行うチーム(個別コンサルティングでの支援)
・Medium Business CSMs
...中規模契約の企業の導入支援、およびアカウントマネージメントを行うチーム(オンライン中心での支援)
・Small Business CSMs
...小規模契約の企業の導入支援、およびアカウントマネージメントを行うチーム(テックタッチでの支援)
・Small Business Renewal Sales
...既存の小規模契約企業の契約更新、拡大、解約阻止を行うチーム
・Enterprise & Medium Business Renewal Sales
...既存のエンタープライズおよび中規模契約企業の契約更新、拡大、解約阻止を行うチーム
・Customer Marketing
...カスタマーサクセスにおけるグランドデザイン/戦略立案、およびそれらを実現する仕組みの構築と、コンテンツの制作を行うチーム
このうちEnterprise CSMsチームを例にとると、「Sansan」を導入した顧客に対する導入支援やその後の運用支援、顧客に向けた利用説明会の実施、顧客要望をもとにした開発部門への機能改善の提案といった業務に携わる。利用率向上のための施策を練るだけでなく、ステークホルダーやクライアントの上層部といったキーマンとの交渉力も必要な、重要なポジションと位置付けられている。
同社のサービスはパナソニックや日本郵便等、中小企業・上場企業から官公庁に至るまで、7000社以上に導入されており、国内シェアは80%以上。早期からカスタマーサクセスの重要性に着目し、顧客と並走してきた結果でもあるのだろう。
人々の消費目的が「所有」から体験や共有にシフトしている以上、サブスクリプション型、SaaS型ビジネスの需要は今後も拡大していくだろう。顧客に選ばれ続けるサービスを育てていくには顧客に寄り添い「続ける」考え方が必須。売り切り型のサービスと違い、初期段階で完璧である必要はない。そのサービスを選択した顧客にとっての「成功」体験とは何なのか、それを実現するには何をしたら良いのかを常に考え、先回りで顧客の不満や不安、要望や課題を解決していく。それができる企業のみが顧客に選ばれ続け、成長し続ける企業になっていきそうだ。