CDOが「チーフ・ドリーム・オフィサー」になる未来へ

 イベント終盤で行われたパネルディスカッションは「デジタルの進展に伴うビジネスモデルの変化と対応」がテーマ。モデレータをCDO Club Japanの加茂氏が務め、パネラーとして三菱ケミカルホールディングスの岩野氏、SOMPOホールディングスの楢﨑氏、Sansanの柿崎氏、そして昨年の「CDO of the Year」受賞者であり現在はLDH JAPANでCDOを務める長瀬次英氏が登壇した。

加茂:CDOという職種が今後どうなっていくのか、どうあるべきなのか。まずはこれについて皆さんのお考えを教えてください。

岩野:私が今の役割を担うようになって約1年半が経ちましたけれども、「ようやく会社全体の問題としてやれるようになったなぁ」という認識。それでもこれまでは好奇心だけで楽しみながら進めてこれたのですが、これからは成果というものを求められるようになるだろうと覚悟しています。

楢﨑:岩野さんほど楽しんでやってこれたかどうかは心許ないですね、こうしてここにいる3人のCDOに囲まれると、同志がいてホッとする感覚もあります(笑)。それでも私なりに前に進めた実感はあります。そして岩野さんがおっしゃった通り、今後はフワフワした話をするのではなく、しっかりとベクトルを定めて成果につなげなければいけなくなるだろうと、私も考えているところです。

柿崎:先ほど長瀬さんとも会場を見渡しながら話していたんですよ。「CDOが増えたのは良いことだけれど、日本はまだまだ男性がほとんどだね」と。実は諸外国では女性のCDOが非常に多い。これにはちゃんと理由や意味もあっての事実なので、お国柄やカルチャーはあるでしょうけれど、今後は女性CDOの増加というのも課題の一つにしていいのではないかと思っています。

株式会社LDH JAPAN 執行役員 CDO 長瀬次英氏

長瀬:昨年CDO of the Yearを受賞した時にはロレアルにおりましたが、今はLDH JAPANという会社でエンタメ業界のCDOとして再スタートを切っています。そんな私が感じている課題は、日本のCDOがカバーできている領域がまだまだ狭いということ。今後は各業界から代表的存在のCDOが現れ、そのプレゼンスが高まっていくようにならないといけないし、そうなった時にこのCDO Clubというものも知見共有の場として、もっと機能していくだろうと思っています。

加茂:今日のスピーチでも随所に登場していましたが、CDOが直面する課題の一つに「企業カルチャーをどう変えていくか」があると思います。皆さんはどうお考えですか?

岩野:先ほど登壇した時にも紹介しましたが、デジタルプレイブックというものを作成して、これを社員のみんなに読んでもらったことが、非常に大きな成果につながっていると思っています。デジタルな変革をしようとしているのが私たちなのですけれど、今でもやはり「読み物」というのが、議論を盛り上げる上でとても有効な存在なのだと再認識させられました。

楢﨑:ぜひともそのプレイブックを見せてほしい、と思っていました。おそらく直球でズバリと物事が書かれているのではないかと想像しているんですよね(笑)。私としても「ない、ない、ない」から「がい、がい、がい」へ、という提言を社内にしているところです。「がい」とは「外」のこと。社外や国外へ視点や意識を向ける。そうすることで古い産業である保険業に根付いたカルチャーを変えたいと思っています。

加茂:具体的にはどんな方策を?

楢﨑:集団に生まれがちな壁を、両方向から壊そうとしています。一つは私たちと同じ考え方の持ち主をどんどん部門外や社外に貸し出していますし、もう一つは何かサービスを創造するときには私たちの部屋を提供してタコ部屋状態にしています。そうすることで壁をどんどん壊していく。成果が現れてタコ部屋が手狭になったので、部屋を拡張しようと考えてもいますよ。

長瀬:私も部署の壁というのがDX最大の障壁の一つだと思っているので、壊さなければいけないと考えていますし、もう一つの障壁が「デジタルを正しく知らない」ということだと思ってもいるので、この2つの壁を何とかするために教育に力を入れています。岩野さんのプレイブックほどではないにせよ、PDFで私流に雑誌のようなものを作成して、ロレアル時代には全社に配信していました。もう一つ有効だと思っているのがプラクティス、つまり実体験ですね。テスト&ランという手法を実際のビジネスで体感してもらい、それによって現場の社員が自信を持って新しい試みに向かって走れるようになれば、カルチャーは変わっていくし、デジタルを担う者との間に共通言語が増えてもいくと思います。

柿崎:今日の登壇で岩野さんが、惜しむことなく「社内でやりかけていること」「つくりかけているもの」というのを見せてくださって、非常に素晴らしいなと感じました。というのも、私自身が社内で「とにかく発信していく」ことを重視しているからです。今、こう考えて、こうしたいと思っているよ、と。社内に限らず、ある程度は社外にも「こうします」と意図的に言い切ったりもします(笑)。「やります」と外に言ってしまったのだから、「やらざるを得ない」よね、と(笑)。それもまた意識やカルチャーを変える一手ではないかと考えています。

加茂:デジタルリーダーであるCDOは、今後日本固有の価値観が残るビジネス界でどう振る舞うべきなんでしょう?

岩野:当社ではトップが「THE KAITEKI COMPANY」という理念を発信して、これを浸透させようとしています。CDOやリーダーたちがやるべきことは、こうした理念を社員のみんながどう実行できるのかを指し示すことだと考えています。「何のために仕事をしているのか」というのは、業界や企業によって異なるでしょうけれども、それをデジタルの領域から社員に伝えていくことが大切だと考えています。

楢﨑:どうしても日本には自虐ネタと言いますか「どうせ俺たちが頑張ったって……」という精神性がいつの頃からかはびこってしまいましたよね。でも、冷静に世界を俯瞰したら、日本で生まれたテクノロジーやカルチャーやアートがたくさんの賞賛を受けて支持されている。そういう事実も踏まえ、やる気を盛り立てていかなければいけませんね。

柿崎:やる気を出す源泉が、少し前ならばお金や地位だったけれども、例えば真面目に社会貢献をしたい、という動機で動く世代も増えています。そうして変化が起きているのならば、このCDO Clubにもどんどん若い人に参加してもらって、一緒に考えたり議論していきたいですね。

長瀬:同感です。ホープフルな若いCDOが増えていったら、それだけでも日本は変わり始めますね。デジタルによる進化も一定のところまで浸透すれば、いちいち口に出すことではなくなるでしょうから、そうなったらわれわれも「チーフ・ドリーム・オフィサー」のCDOになれば良いんです(笑)