伊佐山:WiLでは、大企業におけるイノベーション促進に関して三つの活動を行っています。一つ目は大企業からの出資によってベンチャー投資を行う活動。これは大企業に対して、新たなビジネスモデルや技術の気づきの場を提供することになります。二つ目は大企業の中でベンチャー的な取組みを実施するための支援です。
三つ目が大企業という保守的な組織が新しいことを受け入れやすくする土壌づくりです。いくらリソースを移転しても、それが拒絶されてしまっては意味がないからです。これら三つの活動を軸に、オープンイノベーションを通じた確かなアウトプットが得られつつあると感じています。
日本人の「イノベーション能力」は高められる
――変わり者の天才だけがイノベーターになれるというイメージはいまだ根強いものがあります。支援によって、イノベーションを興す能力は高められるものでしょうか。
西口:イノベーションを属人的な取り組みから組織活動へ引き上げる過程で、イノベーターのスキルや思考、行動特性も明らかになってきました。例えば、AからBへ意図して変化を起こすというのは、イノベーターが持つ能力の一つです。
日本人は、決まったことを徹底的に最後までやる能力が高い半面、イノベーションに不可欠な、試行錯誤による課題の発見や変化への対応を苦手とする傾向があります。こうした傾向は、天性のものというより、教育に起因するところが大きいと言えます。逆に言えば、トレーニングすれば、後者の能力も身に付けられるということです。ですから、「教育」はイノベーションを興す上で大変重要なことです。
伊佐山:イノベーションにおいて「教育」が大事というのは同感です。一方、日本ではイノベーションを興す要素としての「技術」を重視しすぎており、そのことが最近、教育現場へ間違った方向で影響を及ぼしていると危惧しています。
今日本では、イノベーションを興すためにAIなどハイテク技術を熟知する人材を育成しようとしています。そのため、全員が義務教育でプログラミングを習得することになりました。しかし、私はそういった方向性はまったくの見当違いだと思います。
――イノベーションを興すのにプログラミング学習は不要、ということでしょうか?
伊佐山:もちろんプログラミングの勉強自体が悪いというわけではなく、とくにコンピューターが好きな子は徹底的に勉強してほしいと思います。危惧しているのは、哲学や歴史といった人文科学や情操教育などの分野が、技術に比べて価値が低いと思われていないか、ということです。
シリコンバレーの教育現場ではすでに、これまでの技術面に偏りすぎた思想に対しての揺り戻しが見られます。つまり、テック(技術)の前に、リベラルアーツ(一般教養など)を勉強しなさいということです。
(後編につづく)