その時、我々は何ができるのか
人間の脳の仕組みが解明されない限り、シンギュラリティはそこまで逼迫した問題でなさそうだ。だが、もしも脳の再現に成功してシンギュラリティが到来した場合、どのようなことが起こるのだろうか。
先述した通り予測は不可能な世界ではあるのだが、『シンギュラリティは近い[エッセンス版] 人類が生命を超越するとき』(NHK出版、2016年4月)において、カーツワイル博士は「シンギュラリティとは、われわれの生物としての思考と存在が、みずからの作りだしたテクノロジーと融合する臨界点であり、その世界は、依然として人間的ではあっても生物としても基盤を超越している」と述べている。シンギュラリティ以後の世界では人間と機械、現実と仮想空間との間に区別が存在しなくなるというのだ。例えば、人体は今後あらゆる臓器が交換できるようになっていき、サイボーグのような存在になっていく。博士は、最終的に寿命という概念は無くなるだろうとしている。
ここまでいくと、いよいよ「SF的」に思えてしまうが、VRやAR、MR技術の発達によって「現実と仮想との区別が無くなって」きているのは確かだ。人間の脳を超えるAIができるかどうかはまだ分からないが、科学技術の発達によって時間や空間の概念は着実に変わり続けている。人間としての在り方を問われる日は、シンギュラリティ到来を待たずして訪れるだろう。一人ひとりが現在のAIにできることとできないことに向き合い、AIによる計算や自動化が不可能な人間らしい仕事や役割とは何か、模索していく必要がありそうだ。