いま起きているAIの進化。シンギュラリティを引き寄せられるのか、そしてロボットの発展

 目覚ましい成果を見せ始めているAI。しかし、それらは本当にあと数十年で「人類を超えた存在」を生み出せると言えるものなのだろうか。AIの進化や、前出のカーツワイル博士の研究について見ていこう。

 現在、カーツワイル博士はGoogleでAI研究の指揮を執り、人間の脳全体の詳細な分析を行い、コンピューター上で再現するための研究に取り組んでいる。人間の脳を超えるAIを作るには当然、先に人間の知識や意識を再現できるAIを完成させる必要があるからだ。

 つまりそれは、こちらの記事で紹介した「汎用人工知能(AGI)」。人間が指示せずとも自分で思考できる「強いAI」を実現させる必要があるのだが、残念ながら完成の目途が立っているとは言い難い。身近な例を挙げよう。

 今年10月、法人モデルの販売から4年目を迎えたソフトバンクロボティクスのコミュニケーションロボット「Pepper」のレンタル契約を更改する(予定)企業が15%にとどまることが、日経xTECHの調査によって明らかになった。数年前から街中で見かけるようになった代表的な「ロボット」だが、本格的な接客を任せようとする「はま寿司」のように有効活用できた企業は少ないようだ。

 この報道から受ける印象は人それぞれだろうが、残念ながら現在のコミュニケーションロボットは活用法を企業側で模索しなければならないもので、「ドラえもん」に搭載されているような「強いAI」からはほど遠い状況なのだ。

 実は、シンギュラリティの前段となる「人間の脳を再現したAI」の実現に関して、懐疑的な研究者は多い。

「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを手掛けた新井紀子博士は、ベストセラー『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、2018年2月)の中で、現在の数学やAIの延長ではシンギュラリティは到来しない、とはっきり否定している。まず「人間の一般的な知能と同等レベルの知能」を持つAIを作るには「私たちの脳が、意識無意識を問わず認識していることをすべて計算可能な数式に置き換える」必要があり、その方法が解明されない限り、シンギュラリティの到来は望めないというのが新井博士の論だ。

「人類最後の発明」と言われ、「仕事を奪う」と恐れられることの多いAIだが、現状「AI」と言われているものは特定の機能に特化した「特化型AI」。決して、自分で思考しているわけではない。また、AIが進化したとしても、人間の身体性を実現できなければ完全な「人間の代わり」を再現することはできないだろう。雇用の問題については、シンギュラリティ以前にAGIが実現されない限り、必要以上に恐れる必要はないのではないだろうか。