「月額35万円」「1億円」に惑わされない!

 老後の必要な金額といってすぐに頭に浮かぶのは「月35万円」や「1億円」という数字かもしれません。これは、公益財団法人生命保険文化センターがおこなったアンケート調査で「老後にゆとりある生活をおくるために必要な生活費」として出てきた金額である月額約35万円が根拠になっています。85歳まで生きるとすると、35万円×12か月×(85歳-60歳)=1億500万円という計算になるわけです。

 しかし、「この金額を真に受ける必要はない」と指摘するのが、大手証券会社を定年退職して現在は経済コラムニストとして活躍する大江英樹さん。自身の経験から「定年時に住宅ローンが完済済みで子どもが独立していたら、月額20万~25万円で生活できる」といい、サラリーマンなら公的年金と企業年金、退職金だけで老後資金の相当部分を賄える可能性があるとアドバイスしています。

 大江さんは大手証券会社で定年まで勤め上げた方ですから、現役中の給与やボーナスが多く、退職金や企業年金も相対的に手厚いはず。そのまま自分に当てはめることはできません。

 老後に必要な金額は勤務している会社や暮らしている地域、自分の生活スタイル、そして健康寿命などによって、大きく変わってきます。したがって、メディアや金融機関が指摘する金額にとらわれずに、ご自分の退職金と老後に必要な金額をいまいちど確認してみましょう。

一気にまとめて使ってはいけない理由とは

 1000万円単位のお金をまとめて入手できるのが退職金です。多くのサラリーマンにとっては、なかなか経験することではありません。そのせいなのか、お金の使い方がいつもと違ってしまう方も珍しくないようです。住宅ローンの一括返済や老後資金のための投資など一見合理的な理由があったとしても、一気にまとめて使うのは再考したいところです。

 それはなぜか。人生100年時代を迎えてこれまで以上に老後の生活が長くなり、当初想定した以上にお金が必要になる可能性が高くなるからです。

 ある年齢の人が平均であと何年生きるかを表す平均余命。厚生労働省がまとめた平成28年(2016年)簡易生命表によると、2016年当時に60歳だった人の平均余命は男性で23.67年、女性が28.91年です。おもな年齢の平均余命も前年を上回っています。

長生きするほど人生後半での出費機会が増える

 定年から25~30年ほどが一般的な老後生活ということになるわけですが、当然のことながらこの時期に発生する出費もあります。