日本の製造業界でIoTが話題になって少し経つ。IoTとは「Internet of Things」の頭文字を取ったもので、世の中の様々な「モノ」がインターネットに接続することによって制御できたり、情報が取得できたりする仕組みである。

これによって大きなパラダイムシフトが起きようとしているわけだが、生活変革だけでなく、それに伴う経済効果に期待を寄せる人々も多いだろう。

では、IoTが普及し様々なモノがインターネットに接続したら誰が“儲かる”のか。モノに機能を追加するためのモジュールメーカーだけが儲かるのでは、日本経済に与えるインパクトは限定的になってしまうだろう。

インターネットにつながった「モノ」について何かしら特有のメリットがあって初めてIoTの価値が生まれてくるわけだが、そのメリットが利用者に感動を与え、コストを下げる内容でなければ産業としては苦しいものになりそうだ。

IoTが期待先行で尻すぼみになってしまうのか、それとも真に世の中に変革を与えビジネスとして伸びていくのかを、2017年8月28日に行われた「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」での基調講演「IoTは金の匂いがしないのか?」(野村総合研究所 鈴木良介氏)を中心に考察した。IoTはビジネスとして成功するのかどうか。成功するにはどのような要素が求められるのかを考えていきたい。

登壇する野村総合研究所の鈴木良介氏

IoTの導入で合理性を追求できるのか?

産業が新技術導入の取捨選択をする際、圧倒的に分かりやすい基準となるのは、それを導入してコストが下がる、売り上げが伸びるなどの経済的なメリットがあるかどうかだ。

企業にとっては倫理的に問題のない中で経済的な効果が得られるのであれば採用しない理由はない。しかし、コストを下げるアプローチと売り上げを伸ばすアプローチはまったく異なる。それぞれのアプローチに応じて考えてみたい。

データ収集だけでは足りない。IoTゴミ箱の導入でコスト削減できた理由

最初に鈴木氏が紹介したのは、「BigBelly」という、ゴミ箱にセンサーを搭載した製品。ゴミ箱にセンサーが入ったことで、

・ゴミの蓄積情報が常に監視できるようになり回収タイミングの最適化が図れる
・ゴミ箱ごとの回収状況が分かるため、ゴミ箱の配置の最適化を図れる
・ゴミを自動的に圧縮できる機能があり回収の頻度を減らせる
・太陽光パネルを実装しておりレイアウトフリー・環境に優しい

というメリットを生んでいるという。

人の往来が激しいレジャー施設や大学の構内でのゴミの管理は決して楽ではない。ゴミ箱を設置しても、管理を怠りゴミが溢れてしまっているのでは意味がなく、また、逆に頻繁にゴミの処理をしようとすると、回収コストが大変だ。

BigBellyを採用することで、アメリカのとある大学ではゴミの回収作業にかかるコストを大幅に削減できた。具体的には年間1560時間、ゴミ回収車の燃料費1300Km分を圧縮できたのだ。

「1台80万円ほどするそうですが、トータルで人件費よりも安くなったそうですよ」と鈴木氏も付け加えている。

しかしこの結果は、IoTセンサーでゴミの情報が見えるようになったことだけでもたらされたものではない。その後のアクションとしてゴミ箱設置やゴミ回収のタイミングを最適化できていることがポイントなのだ。

このように、製品を導入するだけで課題を解決できるわけではなく、それをどのように導入し、どのように運用するかという戦略まで見据えなければ、意味がないのである。