異文化適合のために管理者としての行動を変える

 タイ人の価値観は、日本人の常識(勝手に日本人が常識と思い込んでいる)からは想像しにくい面がある。

 例えば、タイ人は約束を持ちかけられるとNoとは言わない。日本人は守れない約束はしないものだが、タイ人は約束をしないことが相手に失礼になるという考えを持っているからである。できない約束でも約束をし、相手も約束を守ってくれなくても怒ることはなく、当たり前と思っている。

 このことを知っていれば、管理者として従業員に働き掛けるときに何を注意すべきか、一歩進んで考えることができる。本当に約束の内容が分かっているのか、約束を守る意思があるのかということを自然と確認するようになるだろう。

 また、タイ人は質問には必ず答えてくれるが、こちらからの質問に対して的外れの回答が延々と返ってくることもある。ここで、筆者がタイで経験したエピソードを記してみたい。

 クルマで目的地まで向かうときに、ドライバーがたびたびクルマを止めて道を尋ねていた。やりとりの様子から、どうも道順を教えてもらっているような雰囲気で、ドライバーも明るい顔をしてクルマに戻ってきたため、こちらも安心していた。しかし、その後、一向に目的地に着かず、迷い続けける羽目になった。あとで分かったのだが、聞く人聞く人で案内している道順が違っていたのである。

 そもそも、聞かれたら分からない、知らないと言わないのがタイ人気質なのである。タイの教育では生徒が先生に対して質問できず、このスタイルで育ってきていることも影響しているのかもしれない。

 そのため、何か依頼すると必ず「分かった(カオチャイ)」と言ってくれる。もちろん、全員がそうとは限らないが、このような振る舞いをする人が多いと思って接すると、相手の反応を理解しながらの指示やコミュニケーションがしやすくなる。