金融の世界では近年、“Banking as a Service(BaaS)”という言葉が注目を集めている。これは「オンラインバンキング」や「モバイルバンキング」とどう違うのか。元日銀局長の山岡浩巳氏が解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第47回。

 近年、デジタル化に伴って登場した言葉に“as a Service”があります。必ずしも確たる定義のある言葉ではありませんが、主に「デジタル技術を活用し、これまでパッケージとされていたものを分解して、用途に応じて必要な部分を切り売りしたり、他のサービスと組み合わせる」ことを指して使われます。

 この言葉は、文頭にさまざまな名詞を伴って使われます。例えば、“Software as a Service(SaaS)”であれば、ソフトウェアを丸ごとパッケージで買って自前のコンピュータで動かす代わりに、クラウドを活用して必要な機能を必要な分だけ購入する形態を指します。また、“Mobility as a Service”であれば、「自家用車」や「電車のチケット」を売る代わりに、さまざまな手段を組み合わせながら「移動」そのものをサービスとして提供することを意味します。

Banking as a Serviceとは

 最近では“Banking”、すなわち「銀行機能」と結び付けた“Banking as a Service”という言葉も使われるようになっています。

 従来、銀行サービスは、銀行自身の店舗網やATM網、大型電算センターなどを基盤として提供していくことが基本となってきました。このため、銀行にとって大規模な店舗網やATM網は「強み」であり、銀行業はインフラの重い「装置産業」と捉えられがちでした。

 もちろん、このような伝統的モデルの見直しは、技術革新により徐々に進んできました。例えば、ATMネットワーク間の提携により、必ずしも自前のATMを経由しなくてもサービスを提供できるようになりました。さらに、近年では「ネットバンキング」や「モバイルバンキング」の発達により、銀行の店舗やATMの代わりに、自らのPCやスマートフォンなどを経由して銀行サービスを利用できるようになっています。

 そして、“Banking as a Service(BaaS)”の段階になると、単に店舗やATMからPCやスマートフォンへといった、ユーザーとの接点(ユーザーインターフェース、UI)の変化にとどまりません。さらに一歩進んで、銀行サービスが、生活全般を広くカバーする多様なサービスの一つとして、スマートフォンアプリなどの中にシームレスに組み込まれている姿を指します。すなわち、銀行サービスそのものが「さまざまなサービスの一つ」と捉えられることになります。