いすゞ自動車 常務執行役員 CHRO 人事部門EVPの有沢正人氏(撮影:榊水麗)
上場企業の人的資本に関する情報開示が進み、経営と人材戦略の一体化が問われている。2025年4月にいすゞ自動車のCHRO(最高人事責任者)に就任した有沢正人氏は、金融や製造業での経験を踏まえ、戦略的人事の推進と社員のエンゲージメント向上に取り組む。有沢氏からみた日本企業における人的資本経営の課題とは。経営戦略と現場をつなぐ人事機能「HRBP(人事ビジネスパートナー)」の導入を進める同社で、有沢氏が描く人事戦略の方向性を聞いた。
日本の人的資本経営は二極化が進む
――近年、日本企業でも人的資本経営の重要性が盛んに議論されるようになりました。この動きをどう見ていますか。
有沢正人氏(以下、敬称略) 進んだ企業もあれば、まだこれからという企業もある。二極化が進んでいる状況ではないでしょうか。
取り組みが進んでいる背景には、2022年に経済産業省が示した「人材版伊藤レポート2.0」や、金融庁が有価証券報告書、統合報告書での人的資本に関する情報の開示を義務付け、株主など企業のステークホルダーが人的資本について厳しい目を向け始めたことがあります。特に上場企業では、株主総会で「人的資本の改善、エンゲージメントはどうなっているか」という株主からの質問が増えているそうです。
また、企業価値向上やガバナンス改善という点でも、人的資本が注目されています。取締役会で、社外取締役が自社の人的資本について質問するケースも増えています。
こうした流れを受け、日本企業でも大手を中心にCHROを設け、人的資本の改善に向けた取り組みが広がっていると思います。
一方で、取り組みが進む企業と、進まない企業との差が開いてきているとも感じます。人的資本の開示に積極的な企業は、たとえ悪い情報でもそのまま開示し、ステークホルダーとの対話を進めて改善しようとしています。
それに対して、「東証や金融庁が人的資本の開示を求めているから、最低限の情報だけ出しておこう」というような消極的な企業は、ステークホルダーからの支持を得られなくなる可能性が高まっています。
とはいえ、この動きが本格化したのはここ2~3年のことであり、先行する企業に十分追いつくことができます。あきらめる必要はないと思います。






