國學院大学経済学部経営学科教授 鈴木智之氏(撮影:岡田一也)
人的資本経営への関心が高まる中、多様な従業員の個性や特性を企業の成長につなげようとする考えが広がっている。こうした状況について、「多くの企業が『個性を生かす』というスローガンを掲げているが、『個』が何を指すのか明確に定義されていない」と指摘するのは、國學院大学経済学部経営学科教授の鈴木智之氏だ。2025年6月に書籍『個性を活かす経営と人事 認知・非認知の経営学』(日本能率協会マネジメントセンター)を出版した同氏に、経営者や人事部門が知るべき個性の考え方、個性を捉えるために有用な視点について聞いた。
「個性」の概念は曖昧に扱われている
――著書『個性を活かす経営と人事 認知・非認知の経営学』では、人的資本経営上の一大テーマである「個性」や「個」について、経営学の視点からひもといています。どのような背景から本書を執筆したのでしょうか。
鈴木智之氏(以下敬称略) 人的資本経営という言葉をよく耳にするようになり、人事領域では長年にわたって「いかにして個を生かすべきか」という議論が繰り返されてきました。しかし、この「個」が具体的に何を指すのか、私自身ずっと違和感を持っていました。それは、人によって定義が全く異なるからです。
個がスキルを指す場合もあれば、性格や思考力といった非認知特性や認知能力を指すこともあります。多様性の文脈では、人種や性別の違いにまで同じ言葉が使われています。このように、個の概念は曖昧であり、共通認識が企業実務において統一されていないように思えます。
しかし、個を生かすことを掲げるのであれば、組織全体がその実現に向けて動かなければなりません。そのためには、経営者や人事部門が「個とは何か」を明確に定義し、社員に示す責任があると考えています。
定義が曖昧なままでは、社員は適切に行動できません。それにもかかわらず、曖昧な表現を使う経営者や人事部門、マネジャーや上司が多いと感じています。そこで、この問題を根本から整理する必要があると考え、本書の執筆に至りました。







