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意思決定には不確実性がつきものだ。限られた情報を基に質の高い判断を下すには、数字の見立てや競合予測など多様なメソッドを駆使する必要がある。本稿では、早稲田大学名誉教授・内田和成氏が書いた『できるリーダーが意思決定の前に考えること』(内田和成著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集。管理会計、ゲーム理論などの活用法を具体例とともに解説する。
「黒字製品」だけを生産すると儲かるのか?
『できるリーダーが意思決定の前に考えること』(日経BP 日本経済新聞出版)
投資判断をするときには事業別の損益を見る必要がありますが、そのときに1つ重要な注意点があります。次の問題を考えてみてください。この問題は『おはなし経済性分析』(伏見多美雄、日本規格協会)を参考にしました。
Q5:製品別の損益を見極める
株式会社やまもと工業は、高級スピーカーに使われる金属製品を受注生産している小さな会社です。最近は、親会社の電機メーカー向けに2種類の製品A、Bを手がけており、毎日1ロットずつ作って納めています。製品A、製品Bとも生産の1ロットは100個です。
やまもと工業の経営者の山本氏は、最近大学を卒業して家業を継いだ長男(山本ジュニア)の意見に従って、原価計算というものをやってみることにしました。原価計算は月次にやるのが普通だと聞いていますが、毎日同じ製品を作っているのだから、1日ごとに利益計算ができるはずだと考えました。
どちらの製品も、それぞれ1ロット作るための所要時間は同じ4時間ずつなので、直接労務費は同額だと考えました。利益計算の内容は次ページ表5-1の通りでした。この表で「材料費・変動経費」というのは生産量に比例するコストです。
「直接労務費」とは、月給方式で支払っている人件費を1日当たりに換算したうえで、これを実労働時間(製品A、製品Bとも4時間ずつ)に比例して両製品に割り振っています。「間接経費」という項目は月々固定的に生じる設備費用や営業経費ですが、1日分の平均額を売上高に比例した配分で2つの製品に割り振っています。






