写真提供:Nikolas Kokovlis/Jakub Porzycki/NurPhoto/共同通信イメージズ

 スタートアップから大企業まで、宇宙ビジネスへの参入が加速している。ロケットや人工衛星の製造、打ち上げ、衛星データを活用したサービスまで、巨大市場の潜在性にかかる期待は大きい。本稿では、『投資家が教える宇宙経済』(チャド・アンダーソン著/加藤喬訳/並木書房)から、内容の一部を抜粋・再編集。国家主導の宇宙開発が「宇宙ビジネス」として大きく進展した背景を読み解く。

 軍事利用から始まった全地球測位システム(GPS)は、今やカーナビやスマホに必須の技術に。新興企業が狙う新たなサービスとは?

スマホの中の宇宙――GPSが日常を支配するまで

投資家が教える宇宙経済』(並木書房)

 宇宙と航法は黎明期から密接に結びついていました。

 地球から400光年以上離れたところに三連星がありますが、肉眼ではひときわ明るい一つの光点として見えます。これがポラリス(北極星)で、地球自転軸の北極側延長線上に位置するためほとんど動かないように見えます。この「北を指す星」は遅くとも古代末期から船乗りたちの航海を助けてきました。偶然にも三連星となった巨星が頼れる航行案内人「北極星」なのです。

 厳密にいうと北極星は完全に北に位置しているわけではありません。その位置は地球の自転軸に対して常に変化しています。何世紀にもわたり天体力学の理解が向上するにつれ、航海者らは北極星の微妙な回転運動を考慮し航行精度を高めてきました。同時にほかの多くの星々も、特に外洋航海の際には、航法援助として使ったのです。大航海時代に続く交易と海外征服計画を一気に推し進めたのは宇宙の研究だったといえるでしょう。

 今日、航法援助に北極星は不要です。はるかに地球に近い天体、つまりGPS衛星が使えるからです。当初、最高精度のGPS信号は軍事用途に限定されていました。アメリカ政府は安全保障上の理由から一般向け信号を「選択利用性」という政策の下、意図的に劣化させていたのです。この状況は2000年5月1日に変わりました。時のビル・クリントン大統領が「一般市民に米軍と同等の位置精度を提供する政策指令」に署名したのです。

 にもかかわらず、民間のGPS利用はガーミン社製のGPS受信機などを購入したドライバーやアウトドア愛好者に限られていました。変化の兆しが見えたのはアイフォーン3Gが誕生した2008年。それでも当時、アイフォーンのGPS機能がもたらす技術的、経済的、文化的影響はまだ十分に認識されていませんでした。