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 成長資金はイノベーションの源泉であり、企業価値向上に不可欠だが、国内では供給不足が指摘されている。本稿では東京大学の人気講義をまとめた『成長資金供給とイノベーションの政策学』(後藤元、有吉尚哉、守屋貴之編著/中央経済社)から内容の一部を抜粋・再編集。

 東京証券取引所が要請する「資本コストや株価を意識した経営」への対応を企業が開示することで、株価にどのような影響があるのか。投資家の視点を取り入れた経営の在り方について考える。
(本内容は2024年に実施された講義の内容を書き起こしたものです)

資本コストや株価を意識した経営の推進

 まず、資本コストや株価を意識した経営の推進について、要請の趣旨や上場会社の対応状況などを紹介します。

■ 要請の趣旨

 日本では、損益計算書上の売上高や利益がどの程度伸びたかを意識して経営をされている企業が多いと指摘されています。実際に、決算説明会などで、業界何位であるとか、地域ナンバーワンであるといったことに言及される経営者も多いです。一方で、株式市場においては、貸借対照表上にある株主から受け入れた資本について、どの程度のリターンが期待されているのか、すなわち資本コストを把握したうえで、それを上回る収益を確保することを経営の目線に取り入れていただきたいと考えています。

 そのうえで、研究開発投資や人的資本投資などの持続的な成長の実現に向けた投資や、事業ポートフォリオの見直しなどを進め、経営資源の適切な配分を実現していただきたいと考えています。最近は、このうち「事業ポートフォリオの見直し」が、投資家目線のキーワードの1つとなっています。

 例えば、複合的な事業を行っている企業では、収益性が低い事業でも、昔からずっと続けているので何となく継続していることが多いです。投資家目線では、資本を効率的に使ってもらいたいので、その事業をよりうまく活用できる企業に事業譲渡するなど、限りある経営資源を有効活用する方策を検討していくことが重要となります。日本の企業では、そうした検討があまり行われてこなかったのですが、経営資源の適切な配分のあり方を考えてもらいたいと要請しています。