写真提供:DPA/共同通信イメージズ

 今や「衰退するかつての先進国」と語られる日本。「失われた30年」を経て、少子高齢化、政府の債務、賃金水準の低迷といった厳しい現実に直面している。とはいえ、人口が世界12位なのにGDPは世界4位の経済大国だ。ということは、日本には独自のビジネスの強みがあるに違いない――。本連載では、一橋大学経済研究所や日本銀行、経済産業省、財務省で研究員・客員教授を歴任したウリケ・シェーデ氏(現・カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授)の著書『シン・日本の経営 悲観バイアスを排す』(ウリケ・シェーデ著、渡部典子訳/日経BP日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「変貌を遂げ再浮上する日本」にスポットを当て、その立役者である成功企業の強みを分析し、学びを得る。

 今回は前回に続き、日本経済が低迷していた2000年代初めに高収益を上げた企業を分析し明らかになった「7つの特徴」のうち、残りの5つを解説する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年7月26日)※内容は掲載当時のもの

⑶ 危機意識(Paranoia)

 1996年、インテルのCEOを長年務めたアンドリュー・グローブは著書『パラノイアだけが生き残る』(日本経済新聞出版、2017年)の中で、企業が長期にわたって成功し続けるためには、名声に安住することはできず、常に危機意識を持って、新技術や新しい競合に目を光らせなければならないと論じた。

 同様に、私が話を聞いたシン・日本企業は、急速な市場変化に不意打ちを食らうことをしきりに心配していた。技術的な破壊や新市場の発展を見通そうとするほか、極端に競争的で、新製品開発、顧客との関係性、戦略策定に多額の資金を投じていた。

 今日でも、上位2社となったキーエンスとファナックはこうした行動で知られている。しかし、他の企業も、常に先に進まなければならないという危機感を持っている点で共通していた。

 また、この「後を追われる」感覚によって、依存関係を弱めることにも非常に熱心だった。こうした企業の大半は系列の中核メンバーではなく、メインバンクにもほとんど依存しない。複数の顧客企業を持ち、グローバルで販売する傾向が見られた。特定の取引パートナーと緊密な関係が維持されるかぎり、通常は排他的ではなく、細心の注意を払って展開していた。