初代料理長・石政進は、全国の旅館で同じような料理が提供されていた時代に、創作料理でもてなした。メニューは柴田書店『かよう亭の料理』に収録されている
宿が地元の文化と風土をキュレーションする
「地域の魅力は“面”で見せなければならない」と上口氏。「かよう亭」は、山中の文化のギャラリーとしてキュレーションされている。
たとえば工芸品。店や美術館では表面的な姿しか見られないが、「かよう亭」では、インテリアや食の器などに用いられた職人の作品を、宿泊客が実際に使って良さを知る。こうして目利きが育つ。
ロビーには、ジョージ・ナカシマの椅子ほか、木工工房の家具が並ぶ
職人も、貴重な地元の食の生産者も支える
料理には、この地の豊かな食文化と工芸とが凝縮されている。橋立漁港であがった魚、山菜や野草など山の幸を野趣たっぷりに、また創作を駆使して料理し、加賀が誇る九谷焼や山中漆器と取り合わせる。

八寸は九谷焼の器に、刺身は、作家もののガラスの器に。「器は料理の着物」という魯山人の言葉も実感できる
「料理人のいる別荘」と称賛され、「かよう亭」はオーベルジュとしての評価も高めてゆく。
チェックアウトは12時。「日本一の朝食」は、時間を気にせず楽しめる
上口氏が「日本一」と自賛する朝食には、ここでしか食べられない地元の食材が揃う。ご飯は、完全無農薬の合鴨農法。収穫の大部分を買い取り、売店で販売もしている。極寒の海で若い海藻の芽だけを手摘みする岩海苔は、全量を買い上げて漁師の操業を支えている。
炭を仕込んだ箱で出される、貴重な手摘みの岩海苔。磯の香りが格別だ
堅豆腐は山の工房で有機大豆を使って手作りされている。テロワールを感じさせる希少食材の数々には、デスティネーションレストランのコンセプトが50年前に先取りされていたようにも思える。
健康な放し飼いの鶏の有精卵の熱々のだし巻きを、特別注文された、溜め塗りの器で
