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 消費者の意識が「所有から利用へ」と移行する今、製造業にも顧客との価値共創を進めることが求められている――。そう語るのは、2025年3月に編著書『価値共創マーケティングの深化』(同文舘出版)を出版した岐阜聖徳学園大学 経済情報学部教授の村松潤一氏だ。価値共創とはどのような考え方で、どのように取り組むべきなのか。価値共創を進める企業例やその取り組み内容について、同氏に話を聞いた。

「製品のアフターサービス」へと収益源を広げる神戸製鋼所

──編著書『価値共創マーケティングの深化』では、現代に求められる価値共創マーケティングの概念や、その取り組み事例について解説しています。産業機械メーカーである神戸製鋼所は、収益源を製品からサービスへとシフトさせているとのことですが、同社はどのように事業構造を変化させているのでしょうか。

村松潤一氏(以下敬称略) 神戸製鋼所(機械事業部門)は、従来型のモノづくりから「アフターサービス起点のビジネス」へ転換を図っています。実際に同社の社員に話を伺った際には「モノを作って販売するビジネスは終わった。顧客に喜んでもらえるサービスを中心としたビジネスモデルに切り替えなければならない」と話していました。

 同社はオーダーメイドでプラント向けの機械設備を製造していますが、近年では納品後、顧客の事業活動支援に深く関与する形でアフターサービスの提供を進めています。こうした取り組みでは、機械設備のアフターサービスをこれまでのような単なる「部品交換・修理」を遥かに超えるものとして位置付けています。そして、そこに「新たな収益機会」を見出そうとしています。

──アフターサービスでは、どのようなことを行うのでしょうか。

村松 例えば、機械設備の定期点検やオーバーホール(分解・修理・部品交換などを行い、新品同様の性能に回復させること)の計画策定支援や実施支援は言うに及ばず、顧客企業のプラント関係者から日々持ちかけられる「操業・保全に関する困りごと」の解決や、プラント内で突発的に発生した障害の復旧方法に関する技術サポートがあります。これらは全て顧客企業の事業を支援するものです。

 こうした取り組みの一環として、2017年より現場内で蓄積伝承されてきたメンテナンスサービスの業務遂行に関するノウハウをデータ化したプラットフォームを構築し、顧客を含めたメンテナンス業務に関わる全てのステークホルダーが仮想空間上でつながる形で業務を推進しています。

 日本では「サービスは無料」という考え方が根強く残っていますが、このような意識を企業・顧客双方で改める必要があるでしょう。そして、企業は価値あるアフターサービスを提供し、その正当な対価を受け取ることこそが、製造業の新たな競争力につながると考えています。