
ディフェンダーが苦手だったこと
ディフェンダーはランドローバーのなかでもとりわけオフロード性能を重視したモデルである。そのことは、オフロード走行時に威力を発揮する副変速機やデフロックを備えていることからも明らか。
オフロード用のレバーなどを操作する時代はもう昔。いまやステアリング6時位置にあるOCTAロゴのボタンを押すだけで自動的に最適なセッティングが選ばれるほか、タッチパネルからの手動設定も可能。360°サラウンドカメラを使ってボンネット下の映像を生成し、車内中央のスクリーンに表示できる「ClearSightグラウンドビュー」などという機能もある
ちなみに副変速機は通常走行時よりもギア比をさらに下げて、より大きな駆動力を生み出すための装置。ギア比が下がるので低い車速域でも微妙な速度のコントロールがしやすくなり、大きな駆動力と相まってオフロードでの走破性が高まるというメリットが手に入る。
いっぽうのデフロックは、ディファレンシャルギアの機能を一時的に制限することで、滑りやすい路面などで一輪が空転し始めたときに反対側の車輪に駆動力を伝達して走破性を高めるための装置。ただし、舗装路でこれを効かせるとスムーズな走りができなくなる場合があるので、デフロックは必要に応じてオン/オフすることが望ましい。そこで最新のディフェンダーは路面状況に応じて自動的にデフロックをオン/オフする機能を搭載している。
複数の走行モードが用意されている。OCTAモードがオフロードに特化した走行モード
こうした装備を満載したディフェンダーは、文字どおりどんな悪路でも走りきる能力を備えていたが、ひとつだけ苦手としていたのが、今回のようにダート路を高速で走行することだった。つまり、荒れ地を高速で走るとボディーが大きく上下にバウンスし、車体の底を路面に打ち付ける恐れがあったのだ。そうした状況ではボディーが大きく揺れ、長距離走行では乗員を疲れさせてしまう可能性もあった。

しかし、ディフェンダー・ブランドのフラッグシップモデルであるディフェンダーOCTAは、そのような走り方をしてもボディーが底打ちすることなく、しかもボディーを比較的フラットな姿勢に保ってくれるので長時間走行でも疲れにくい。だからこそ、試乗会に同行したインストラクターたちは、これまでの禁を破ってオフロードでの高速走行を私たちに許したのである。
しかも、今回の試乗会でもランドローバーのお約束と言っていい険しい岩場や砂漠のような砂地を走るメニューもしっかり用意されていたが、そんなコースもいつもどおり難なく走りきってみせた。
このクルマはこういうのが本来の姿である
つまり、ディフェンダーOCTAは、既存のディフェンダーと変わらない圧倒的なオフロード性能を維持したまま、高速オフロード走行に必要な性能も新たに手に入れたのだ。
どんなメカニズムでそれを実現したかは後述するとして、まずはディフェンダーOCTAの商品企画に関わったマーク・キャメロンに、このコンセプトが誕生した背景を語ってもらうことにしよう。なお、キャメロンはディフェンダー・ブランドのマネージング・ディレクターを務める人物である。
「ディフェンダーOCTAはディフェンダー・ブランドのヒーローモデルです。そこで、ディフェンダー本来の優れた特性は守りながら、これまでにない新たな性能を手に入れたかった。それが高速オフロード性能だったのです」

これを実現するため、ディフェンダーOCTAは車高を28mm高めてロードクリアランスを確保するとともに、足回りに6D ダイナミックサスペンションを搭載。優れた走破性と安定性、そして快適性をあらゆる路面で実現することを目指したのである。
6D ダイナミックサスペンション
6D ダイナミックサスペンションは、すでに紹介したレンジローバースポーツSVでデビューした新機構で、車体の前後左右に取り付けられたサスペンションダンパーを相互に関連づけることにより、ボディーの前後方向の傾き(ピッチング)や左右方向の傾き(ローリング)を抑えるもの。一般的には、硬いサスペンション・スプリングやサスペンション・ダンパーを用いることでボディーの傾きを抑えるが、6D ダイナミックサスペンションではサスペンション機構自体にボディーの傾きを抑える効果があるので、通常よりもソフトなサスペンション・スプリングやサスペンション・ダンパーを装着できるというメリットがある。これを活用することで、ハンドリング性能を損なうことなく、乗り心地を改善できるのだ。
いっぽうのディフェンダーOCTAでは、ソフトなスプリングやダンパーを選べるという6D ダイナミックサスペンションの特性を、オフロード性能の向上に役立てた。起伏の激しいオフロードでは、ソフトなサスペンションで4輪を路面に追従させることがなによりも重要となるからだ。
そして高速オフロード走行時には、しなやかなサスペンションでタイヤに加わる激しい振動を受けとめることで、安定したハンドリングの実現に寄与するとともに、ボディーを常にフラットに近い状況に保つことで乗員の疲労を最小限に留める効果も得られる。
なお、車高を28mm上げれば重心高も上がって車両の安定性は低下するのが一般的だが、ディフェンダーOCTAではサスペンションアームの配置を見直すことでロールセンター(車両がロールする際の回転軸)を最適化するという極めて入念な対策が実施された。
