②[保守的なシナリオ] 世界市場は欧州・中国とその他地域で分かれる

 EVの普及が欧州・中国で大きく進む一方、米国・日本や新興国では緩やかにしか進まないと想定する。

 まず、欧州・中国では、EVの現地生産はもちろんバッテリーの原材料調達、製造、さらに回収後のリサイクルまで含めたバリューチェーンが、域内で構築されるだろう。このバリューチェーンは、依然として内燃エンジンおよびハイブリッド車が中心の米国、日本、その他地域とは、自動車業界の事業構造やプレーヤーをまったく違うものに変えてしまうと考えられる。

 企業にとっては、EVを中心に市場が形成される欧州・中国と、内燃エンジンとハイブリッド車が中心の米国、日本、その他地域とでは、異なる戦い方や資源配分を求められるだろう。

③[急進的なシナリオ] EVと自動運転タクシーが一般化する

 EVの普及が、成熟国だけでなく新興国でも進めば、EV事業に合わせたサプライチェーンおよびリサイクルチェーンの構築がグローバルで進むことになるだろう。その場合は、内燃エンジンを前提とした従来のバリューチェーンは消滅に向かうと考えられる。

 このシナリオで最も重要なポイントは自動運転タクシーの普及だ。EVの普及が進み、かつ自動運転が実用化の段階に入ると、車両の所有は自動運転タクシーサービスに関わる法人が主体となり、個人の所有は減少していくはずだ。

 つまり、自動運転の普及が契機となって市場の縮小が顕在化する。これを地域別に見ると、自動運転タクシー普及で市場が縮小する先進国を中心とした地域と、EVの普及が遅く依然として個人所有の市場が残る新興国との二極化が進むだろう。

 そうなると企業にとっても、それぞれ異なるビジネスモデルを検討する必要がある。自動車所有の主体が個人から法人に移行すれば、求められる価値も当然変わってくる。たとえば、付加価値の高い高級車の需要は減り、低価格で耐久性の高いモデルが人気となるなど変化があるはずだ。

 さらには企業の収益構造も変わってくるだろう。自動運転タクシーサービスに何らかの形で参入を検討するOEMも出てくるはずだ。一方で、旧来の事業モデルを継承する新興国での事業にどう資源配分していくのか、という課題も検討する必要がある。

 以上は、「EVの普及」「自動運転の進展」の2つを中心に考えたシナリオである。ほかにもたとえば「OEMの勢力図の変化」を重要な要素として考慮してもよいだろう。また、「自動車業界全般」ではなく「OEMとサプライヤーの役割分担」に視点を定めて検討するなど、さまざまなシナリオが考えられる。

<連載ラインアップ>
第1回 2030年代後半から自動車市場はピークアウトの予測 見逃してはいけない“EVだけではない”100年に一度の大変化とは?
■第2回 「EV普及率40~80%」「自動運転レベル3~4」を掛け合わせて予測 2040年の自動車業界を見通す3つのシナリオとは?(本稿)
■第3回 2030年に物流の需給ギャップは34.1%の予測 なぜ日本の物流危機はDXだけで解決できないのか?(1月17日公開)
■第4回 味の素などが共同配送するF-LINE、伊藤忠などによるフィジカルインターネット…企業間連携と新たな物流モデルとは?(1月20日公開)
■第5回 世界で2番目にアクティビストが活発な日本 ハゲタカでない「エンゲージメントファンド」は企業価値をどう高めるか(1月21日公開)
■第6回 資本効率、ガバナンス、TSR…アクティビスト対策と企業価値向上のために経営者が手を打っておくべきこととは?(1月22日公開)

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