では、実際にどのようなシナリオがあるのか例示してみたい。ここでは「EVの普及」「自動運転の進展」の2つをシナリオ検討の中心に据えた。前述した通り、すべてのトレンドを組み込んで検討することは現実的ではないので、考慮すべき重要な要素としてこの2つを選んでみた。

 まず、EVの普及について。EV普及に向けた大きな流れに変わりはないが、そのスピードや地域別の状況にはある程度の幅が想定できる。

 可能性が比較的高いのは、「先進国をはじめ成熟国を中心にEVの普及が進み、グローバルでの新車販売におけるEVの比率は60%を超える」というシナリオだ。

 一方、もう少し慎重に見るなら「欧州・中国ではEV普及が大きく進むが、米国・日本や新興国での普及は緩やか」というシナリオがある。逆に普及を楽観視するなら、「新興国においてもEVが急速に普及し、グローバルでのEV比率は80%を超える」という想定もありうるだろう。

 次に自動運転はどうか。特にレベル4の特定条件付き完全自動運転がどのようなスピードで普及していくかについては見立てに幅があり、それによっては自動車・モビリティに関わるエコシステムのあり方が大きく変わってくる。

 比較的可能性が高いのは、「レベル4の普及・商用化は進展するものの、限定的な地域での自動運転タクシーサービスが中心」というものだ。技術開発とコストダウンはある程度進むが、幅広い地域や多様な環境下で安全を担保しながら運行できるかというと、まだ難しいという想定である。

 技術面でのハードルの高さに加え、事故が起きた際に誰に責任があるのかという法制度上の課題もあり、2040年時点では一般的な普及には至らない、と見るのがこのシナリオだ。

 さらに慎重に考えるなら、「レベル3までは着実に進むが、レベル4の普及はかなり限定的」というシナリオもありうる。レベル4の技術開発におけるハードルは思ったより高く、2040年時点ではまだ大きなブレークスルーは起きない。その場合は、自動運転タクシーの商用サービスも米国と中国の一部に限られる。