4つの監査の実践におけるポイント
このように、監査の機能も目的に応じて使い分けていくことが求められる。必要な場面も異なれば、求められるスキルも変わってくる。
「②有効性監査」では、重点対象の見極め、プロセスの目的、パフォーマンス評価指標の目標値の理解が必須である。目標と実態のギャップを仮説として捉えるところから出発するため、プロセスの理解に加え、前後工程含めたシステム全体を俯瞰(ふかん)する視点、事実やデータに基づく実態の把握を踏まえた仮説構築力が期待される。
適合性監査や有効性監査など従来の内部監査が、「監査する人/される人」という立ち位置が作られてしまっている状況の打破も試みたい。本来技術的な議論を通じてシステムをよりよいものに改善していく議論の場として位置付けられるべきである。各部門は内部監査が自部門のパフォーマンスにどう影響するかを理解し、他部門からの客観的な視点での意見によって、さらなる課題発見・解決のチャンスと認識できるよう、「内部監査に対する認識転換」も重要と考える。
「③不正発見監査」では、重点対象の見極めとして、不正リスクの高い領域を見つけることが大前提となる。不正を生む業務(実験、検査)、組織特性(配置替えが少ない、傍流事業等外から見えにくい組織)、法令の種類や更新タイミング、など事業特性を踏まえた重点領域を見極め、その上で、性悪説に基づき、客観性を持って監査に臨む必要がある。監査の種類としても、システム監査にとどまらず、製造工程監査、製品監査など最適なものを選びたい。また、資料、データの確認は、自らサンプリングし、データの傾向を見る、実績を見るなど、主体的な発見力が問われる。被監査側との関係を気にしない監査員の人選なども必要に応じて求められるであろう。
「④不正防止監査」では、リスクマネジメントが展開され、リスクの対策が展開されていることが前提となる。リスクマネジメントを通じて、不正に向き合う活動も一つの意識醸成活動にもなるため、不正防止監査をするためにも、リスクマネジメントの取り組みはQMSの一部として入れ込みたい。リスク対策の有効性としては、対策の妥当性(基準の科学的根拠)と安定性(対策が持続的に順守できるか)の観点がある。安定性の観点では、QMSの確認と共に、体制監査(業務量に対するリソース充足度)を通じて、運用可能な仕組みか否かの評価も行いたい。
まとめ
品質監査は重要な活動であることは言うまでもない。事業方針や計画、今の自社のQMSの実態、課題を踏まえ、実施すべきことを明確にした上で、自社に必要な「監査」を定義することが重要と考える。今回4つの監査を紹介したが、いずれにせよ、システムの脆弱箇所を(ぜいじゃく)箇所を見つけ、是正につながる活動であるが、その活動を通じて、他部門の業務を知る、後工程の要求事項を知る、良い取り組み事例を知る、など部門が連携したコミュニケーションの場にもなりうる。これらも加味し、品質保証部は、これらの監査の機能を再考し、目指す監査を定めると共に、そのための課題(監査プロセス、被監査側のマインド、監査員の力量、リソース)を捉え、課題を提言していくリーダーシップを期待したい。
コンサルタント
辻本 靖(つじもと やすし)
生産コンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
開発・調達・生産の課題解決に従事し、自動車部品、産業機械、電機、食品、医薬、化粧品、等の業種において多くの実績を持つ。個社の特性を踏まえ、ものづくり全体の問題構造を捉え、持続的にQCDを高められるシステムづくりにこだわって取り組んでいる。 「ものと情報のよどみない流れ」に着目したシステムの設計から、人材育成・マネジメント体制整備等運用レベルの向上に至るまで、全社課題の解決に取り組んでいる。