「20世紀を代表する哲学者」と評されるルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889~1951年)
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 グローバル化とデジタル化が進む中、変化の激しい時代に対応するため、歴史や哲学を含むリベラルアーツ(教養)の重要性が再認識されている。本連載では、『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の著書があるマーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、日々のビジネスと関連付けて解説する。

 ビジネスで流行する「言語化」。しかし、行き過ぎれば「言語化ハラスメント」にもなる。言葉にできない領域をどう扱うか。20世紀を代表する哲学者ウィトゲンシュタインの名著をもとに「言葉の限界」について考える。

「言語化」の功罪

 ビジネスの世界では「言語化」がおおはやりだ。

「では、あなたの問題意識を言語化してください」
「で、モヤモヤって何? 具体的に言ってみて」
「それは、自分の言葉でちゃんと定義してからだね」

 言語化できないと議論ができない。言語化できれば、話し合いもできる。かく言う私も企業研修などで、問題意識をできるだけ言語化していただくようにお願いしている。

 ただこれが行き過ぎると「言語化できないやつは駄目」というレッテル貼りになったりする。こうなるともはや「言語化ハラスメント」だ。確かに言語化はビジネスで役立つが、必ずしも万能ではない。どうしても言語化できない部分が残るからだ。

 このことを理解する上で役立つのが、「20世紀を代表する哲学者」と言われるいわれるルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが書いた『論理哲学論考』だ。本書は難解なことで知られているが、「言語化」を考える上で参考になるのだ。