ピンチになると頑張れる

「滑るときに『楽しい』って思えるのはスケートを始めた頃も今も変わってないです。選手としてフィギュアスケートに集中して取り組もうと思う前よりも自分が試合でやるべき課題だとかエレメンツとか、ちょっと難しいことをやっているだけで、根本にある『スケートを滑っているのが好き』という思いは変わってないですね」

 自分はもっと上手くなれると信じる心、スケートへの愛着。一貫した思いがある。それは千葉の「芯」と言っていいかもしれない。大会後に発する、ときに信念を感じさせる言葉もそこに通じているのではないか。すると千葉は笑って言う。

「気持ちを強く持っていたいとき、信念が揺らぎそうなときに言葉に出していると思います。ふだん頑固なところもあるかもしれないけれど、もともと強いというよりかは強く保とうとして話している感じです」

 昨シーズンはショートプログラムでつまずいてもフリーで挽回する大会も目についた。「一番緊張する」と多くのスケーターが言う全日本選手権での2年続けての好演技も印象的だ。

「自分はわりかし今頑張らなくてどうする、ってときに底力的な感じで出せるタイプなので、緊張して潰されそうな自分を気合で押し切って演技するのはここ3年ぐらいで少しずつ分かってきた感覚です。四大陸選手権の雰囲気が自分は好きで、踏ん張らなきゃって思わせてくれるような雰囲気で言葉にしがたいんですけど、シーズン序盤の試合でも、世界選手権でも、四大陸選手権のような演技ができるように経験を積んでいきたいなと思います」

 次の言葉も千葉の特徴を伝える。

「主観寄りの見方ではあるんですけれど、私はピンチになると頑張れるタイプだな、と思います」

 笑うと、こう付け加える。

「ピンチで頑張れる反面、ピンチじゃないところで少しさぼりがちっていうところが欠点だと思うので、ピンチじゃなくてもやらなきゃいけないところはしっかりやっていきたいですね」

 

4回転トウループを練習中

 飛躍を遂げたシーズンを終えた千葉は、今春、早稲田大学人間科学部通信課程(eスクール)の人間情報科学科に入学した。

「フィギュアスケートを学術的に研究したくて学びたいと思った分野が早稲田の人間科学部にあったので、練習時間にもあまり影響しないeスクール体制がいいなと思いました。1年目からフィギュアスケートにいかせそうな勉強で、毎日課題を隙間時間にやりながらすごく充実した大学の勉強の生活が送れているかなと思います」

 充実は勉強ばかりではない。仙台から移った当初は京都特有の暑さをはじめ環境の変化にも戸惑ったが、木下アカデミーに移って2年目、戸惑いもなくなった。

「練習のスタイルや生活スタイルにはもうすっかり慣れて、自分でしっかりコントロールして練習を進めていける自信はついています。濱田(美栄)コーチの指導がすごく分かりやすくて熱いので、私も濱田先生以上のフィギュアスケートに対する情熱を持って熱く練習に取り組む毎日を送れていると思います」

 視線は新しいシーズンに向かっている。

「今シーズンはグランプリシリーズでしっかり自分のベストというか、自分に打ち勝つノーミスの演技をしてグランプリファイナルに出場することがまず1つの目標で、全日本選手権や年明けの試合でもしっかり、シーズン前半も後半も自分の納得のいく演技ができるように、とにかく全シーズンを通して安定した演技をしたいです。今、4回転トウループを練習しているんですけど、演技を安定させることと大技を習得することを抱負に頑張っていきたいです。フレーズをつけるとすればですか? 難しいですけれど、強い気持ちを忘れないために『心を燃やせ』にしておきます」

 理想とするのは「ジャンプとスピンとスケーティング、すべてが得意な選手」。それを体現するために、目標を現実とするために、よりどころとなる芯とともに千葉百音は進んでいく。