大企業の経営幹部たちが学び始め、ビジネスパーソンの間で注目が高まるリベラルアーツ(教養)。グローバル化やデジタル化が進み、変化のスピードと複雑性が増す世界で起こるさまざまな事柄に対処するために、歴史や哲学なども踏まえた本質的な判断がリーダーに必要とされている。本連載では、『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の著書があるマーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、日々のビジネスと関連付けて解説する。
連載第2回は、「熱い組織」と「冷めた組織」が存在するメカニズムにも通じる、「熱力学第二法則」について解説する。
熱力学第二法則とは何か?
本連載は、ビジネスで責任ある立場にいる方々が骨太なビジネス思考を身につける上で、土台となる実践的な教養のエッセンスを学んでいただく場をご提供することを目的としている。
連載第1回『ソクラテス哲学を学ぶと、なぜ「心理的安全性」が理解できるのか?』では、西洋哲学の源流である「ソクラテス哲学」が、近年話題の「心理的安全性」の概念とどのように密接な関係があるかをひもといた。しかし西洋哲学はあくまで教養の一分野に過ぎない。
連載第2回では、物理学の中でも人生に与える本質的な影響を教えてくれる数少ない物理法則「熱力学の第二法則」と、東洋思想の関係をひもといていこう。
紅茶にミルクを入れると、ミルクが徐々に広がってミルクティーとなる。可愛い赤ちゃんもみずみずしい若者になり、その後数十年経つと萎(しな)びた老人となって死を迎える。常に整理整頓している部屋はいつか乱雑になり、数千年たつと跡形もなく消える。ちなみに私の部屋に限れば、わずか1週間であっという間に乱雑になる。このようにあらゆる事物は例外なく、秩序ある状態から無秩序な方向に進み、最後は「停止状態」となる。これは森羅万象に共通する法則だ。
この「無秩序さの程度」を示すものが「エントロピー」という概念だ。そして「エントロピー(無秩序さ)は常に増大し続ける」と示したのが「熱力学第二法則」なのである。私は大学の工学部でこの法則を学び、人生観が変わる衝撃を受けた。
ただこの熱力学第二法則や「エントロピー」は、少々分かりにくい。これらを理解するには、熱と温度の本質を理解した上で、状態数や無秩序さの概念を理解する必要があるからだ。
そこでお薦めの本が、エントロピーと熱力学第二法則を、数学を使わずに分かりやすく解説した『エントロピーと秩序 熱力学第二法則への招待』(ピーター・W・アトキンス著、米沢富美子/森弘之訳、日経サイエンス社)である。
原書は1984年刊行(邦訳版は1992年)と今や古典とも言える本だが、熱力学を理解する上でイチオシだ。そこで今回も拙著『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)をサブテキストに使用しながら解説していこう。