早稲田大学が毎年発表している世界デジタル政府ランキングにおいて、3年連続トップに選ばれているデンマーク。日常にデジタルインフラが浸透しており、毎年発表される世界幸福度ランキングでも常に上位に位置することからも、市民の満足度の高さがうかがえる。そんなデンマークに2005年から在住し、北欧諸国の研究調査やビジネス支援などを行う北欧研究所を主宰する他、ロキレス大学や一橋大学で研究を行っているのが安岡美佳氏だ。安岡氏への取材を通して、日本の自治体DXについて考える。
なぜDXを進めるのか、目的を明確にする
デンマークにおけるDXの取り組みは、1968年に導入された「CPR(Centrale Person Registernumber)」までさかのぼる。個人番号、日本のマイナンバーに近い。
10桁の数字が全国民に与えられ、氏名、住所、家族構成など個人情報がひもづく。デンマークではこのCPRをベースに、納税や行政に関する手続きなど、各種デジタルサービスを展開している。
2005年には「borger.dk」というポータルサイトが開設され多くのデジタル行政サービスが集約された。認証、署名機能を備えたeIDを用いることで、自分の個人情報にオンラインでアクセスできたり、さまざまな行政サービスが手軽に利用できたりするようになった。スライドで示された各種デジタルサービスに簡単にアクセスできるようになり、利便性はさらに高まった。
日本でマイナンバー制度の本格運用が始まったのは2016年からだ。デンマークより半世紀近くも遅れているが、重要なのは時期だけではないと安岡氏は言う。
「日本のマイナンバー制度はそもそも何のためのものなのか、よく分からないと感じています。一方でデンマークのCPRは、徴税を個人とリンクさせるという明確な目的がありました。その他のサービスも同様です」
デジタルサービスで得たデータは市民のものであり、可視化して市民に共有するとの考えがあるのも特徴だ。
そのため医療分野では、共通電子カルテシステムが用いられ、医療機関が情報を集約しており、日本のように他院に行くたびに改めて問診票を書いたり、同じような検査をしたりする必要はない。これだけ聞いても、日本とデンマークの市民の満足度に差があることは明白だろう。