主要な経営課題となったDXに多くの企業が取り組んでいるものの、その進捗と成果には大きな差が開いている。DXの成否は、これまでの情報蓄積と活用に関する企業経営の在り方や、企業組織が抱える課題をあぶり出す、試験紙ともいえるだろう。一橋大学大学院教授の西野和美氏は、情報資源の活用と組織変革にこそ、DX成功の糸口があると指摘する。トップが積極的に関与し、具体的な戦略を示し、組織構造を変え、評価軸を見直すといった一連の取り組みが欠かせない。デジタル技術があらゆる産業の基盤となる現代社会において、企業はどう振る舞うべきか。情報を企業の重要な経営資源としていかに活用するのか。デジタル時代に求められる企業経営の在り方について、西野氏に聞いた。
DXで見直される「情報」の重要性
——日本企業のDXの現状についてどのように捉えていますか。
西野和美氏(以下敬称略) 多くの日本企業がDXに取り組んでいますが、「思ったような成果」が出ていないというのが現状だと認識しています。
情報が紙などの旧来型の媒体や、人に依存していたこれまでの在り方から、データ化され共有化されることで、業務の効率性や迅速性が高まっているはずです。同時に成長を阻害するボトルネックが分かり、経営改善もしやすくなっているでしょう。
しかし、新事業の創出や事業構造の変革までは至っていないというのが現状ではないでしょうか。
——西野教授は企業経営において情報が重要だといわれています。
西野氏 経営戦略論で、経営資源にはヒト、モノ、カネ、情報の4つの要素があるといわれています。そのため、情報が企業経営に重要だという認識はすでにありました。しかし、これまでその中身や意義についての深掘りがあまりされなかったのです。
現代はインターネットが普及したことで、一見すると誰でも情報を発信でき、良質な情報を得られそうな気がします。ところが、現実はむしろ個人の情報を扱う力の差が開いているといえます。技術知識を持ち、顧客のニーズを把握でき、会社や製品の魅力をいいイメージで表現できる。こういう人は、まさしく情報を扱う力が高い人なのです。
このように個人も情報処理の主体と考えると、扱える情報の質や量、その処理の仕方など良しあしがあります。つまり、個の集合体である企業の業績も情報の扱い方、処理の仕方で変わる可能性があります。だからこそ、情報と情報処理は企業経営にとって大切なのです。
ところがこうした営みはごく当たり前のこととして捉えられています。例えば、日報を書くとか、会議で自分のアイデアをプレゼンするといった行為は、自分なりに情報を咀嚼(そしゃく)して、新たな情報にして共有する活動です。こうした日々の業務活動そのものが情報のアウトプット活動といえるのですが、これらはあまり意識せずに取り組まれてきました。