枕草子に書かれたこと

 最後に、『枕草子』を取り上げたい。

『枕草子』「この草子、目に見え心に思うことを」によれば、清少納言は、定子が兄の藤原伊周から貰った、当時は貴重品であった草子(冊子)を与えられ、執筆をはじめたという。

 内容は、「鳥は」や「すさまじきもの」のように、「——は」や「——もの」ではじまる類聚章段、日記的章段、随筆的章段の三つ大別される。

 前述のとおり、父・藤原道隆の死去後の定子には、辛いこと、悲しいことも少なくなかった。

 だが、清少納言は定子の不遇や、悲しみなどに触れていない。定子が亡くなったことすら、記されていないのだ。

『枕草子』で描かれる後宮での生活は、ひたすら明るく華やかである。

 涙をこらえながら、敬慕する定子との思い出を、美しく書き残したのだろうか。