目的思考でしくみの改善余地を総点検する

 このような状況、課題を多かれ少なかれ抱えている場合にどう取り組めば良いのか。まずは、審査を意識しないことをトップが全社員に明言し、意識改革を促すことである。

 社員おのおのが、自分の仕事や部署が審査で指摘を受けないようにルール通りに仕事をすることを意識することは、責任感の現れでもあるので決して悪いことではない。もちろんそれ自体は否定しないが、それ以上に顧客視点での品質保証ができているか、QMSのあるべき姿を追求しているか、といった観点での責任意識にしなくてはならないのである。

 必ずしも現状のQMSが常にベストというわけではなく、あるべき姿は企業をとりまく環境によって変化するものであることを認識しなくてはならない。組織をけん引する者、QMSの維持、改善をリードしていく者は、QMSの根底に根づいてしまっている審査に対するイメージを覆すように、「誰のためのQMSなのか」、決して審査員のためのQMSでないことを今一度周知してもらいたい。

 次に、現在のQMSの総チェックと改善である。

 ISO9001の運用における課題を企業に聞いてみると、もっとも多い声は「QMSの形骸化・形式化」である。QMSのあちらこちらに形骸化している業務が点在しているという課題認識をもっており、現場の第一線(担当者レベル)になるとなおさらその声は強い。

 1つ1つの業務に目的があり、その目的が顧客への品質保証に帰結するものでなくてはならないが、具体的な実務の方法(手段)を見ると目的との乖離(かいり)が存在しているケースが見受けられる。「なぜこの業務が必要か」、「なぜこの文書や記録が必要か」、「なぜここまで厳密に管理しなくてはならないか」などを問いていった時に、「ISOで要求されているから、それ以外に目的が見いだせない」のような業務こそが、形骸化といえる。

 これが多く存在すると、QMS自体の存在意義に疑問符がついてしまうであろう。ISOの認証取得後もこれを議論し続けている企業は意外と少ない。長年のあかではないが、形骸化の観点で総点検をかけ、今の品質問題、置かれている環境に照らし合わせて、効率的かつ品質保証力に高いQMSへの改善を描く必要性があると考える。

 目線を変えるだけでもQMSの改善余地は大きいのである。

コンサルタント 安孫子靖生 (あびこ やすお)

生産コンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント

品質の領域を中心としたコンサルティング活動を展開、品質保証体制の構築、品質マネジメントシステムの構築、改善、品質管理改善、業務プロセス改善、ISO9001・IATF16949・ISO13485などの導入支援等を専門としている。製造業をはじめさまざまな業界での経験を有し、営業、設計開発、製造のプロセスの連携を重視した品質マネジメントを目指し、改革立案、推進指導、各種研修を展開している。