より高みを目指して
この数年、支援を受けてきたスポンサーとの契約が終わったのはシーズン前のこと。それは少なくない費用がかかるスケーターにとって、競技を続ける上で大きな問題を抱えることを意味する。友野も大会後の取材などでスポンサーを募集していることを伝えてきた。また、選手は所属先がなければならないため、中学時代まで過ごした上野芝スケートクラブに所属する形をとり、大会に出場を続けた。
それでも友野は前を向いていた。より高みを目指す姿勢があった。
だからこそ、得られたこともあった。
友野にとってグランプリシリーズ初戦のフランス大会を3位で終えたあとの2戦目、NHK杯はショートプログラム4位を受けてのフリーで3位の滑りを見せた。
総合成績では4位と表彰台まであと一歩のところで終えた試合のあと、友野はこう語った。
「今まで自分の弱さにすごい向き合ってきたんですけど、その弱さも少しずつ克服されてきて、じゃあ次は何か、と言ったときに『足りないのは自信だな』と思いました。今日からは自分の強さと向き合って試合をしようと切り替えて、すごくいい気持ちでできました」
課題をみつめることも大切なら、自分のよさを認めることも大切だ。友野が得た新たな境地だった。
全日本選手権で初めて表彰台に登り、補欠からではなく初めて世界選手権に出場する権利を得ることができたのは、困難もありつつ、それをも前向きに捉え、そして糧も得ながら進んできたシーズンを象徴しているようでもある。
友野一希の名前を見ると浮かんでくるのは楽しそうな笑顔だ。とりわけアイスショーでは、考え抜いたナンバーを、創意工夫を凝らして演じ、観客を魅了してきた。
「代打」としてではなく出場する世界選手権は3度目の舞台は、試合を通じて友野の世界を存分に見せるための場だ。
観客を魅了する演技とともに、さらなる高みへ進むために、大舞台に挑む。