KDDI株式会社 技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部長 渡里雅史氏 2005年入社。KDDI総合研究所等を経て、2020年4月より現職。

 5G商用サービスの普及がなかなか進まない中、2021年末から2022年にかけて、キャリア各社が「真の5G」ともいわれるSA(Stand Alone)方式による5Gサービスを開始した。中でも注目されるのが、KDDIが提供する「ネットワークスライシング技術」を使った日本初の商用サービスで、現状の5Gの課題の一つでもある通信の不安定さを解消することができる。

 また、同社は、今年2月に世界初となる5G仮想化基地局の商用通信にも成功した。今後、同社は、これらの成果を基に、単なる回線提供ではなく、ユーザー企業のDXを加速させる5Gプラットフォームの提供を目指すという。同社がどのようなビジョンの下、どんなサービスを展開していこうとしているのか、SAのインフラ開発とDX支援サービスをけん引する渡里雅史氏に聞いた。

高い安定性や遅延のない通信を可能にするネットワークスライシング

―KDDIの5G SAの特徴はどこにあるのでしょう。

渡里 これまでの5Gサービスが4G LTEの技術・装置を併用したNSA(Non Stand Alone)方式であったことに対し、5G SAは4Gシステムに依存しない方式で、「真の5G」とも呼ばれています。5G SAでは、5G専用設備のみを使って通信を行うため、5Gのポテンシャルを最大限引き出した高機能な通信を可能とします。

5G NSAは4G設備を使うが、5G SAは5G専用設備のみで通信を行う

 この5G SAを使った商用サービスをキャリア各社が一斉にスタートさせましたが、当社のサービスが他社と大きく異なるのは、「ネットワークスライシング」を活用していることです。これは、ネットワークを論理的に分割し、それぞれのニーズや用途に応じた専用ネットワークの「スライス」を作り、さまざまなサービスを提供するものです。5Gコアネットワークがソフトウエアによって完全仮想化されることで実現する機能で、スライシングされたネットワークは、他の通信の影響を受けないため、安定した通信を維持できることに加え、大容量データの通信に適した環境や遅延を最小限に抑える環境など、用途に合わせてスペックを変えることができます。

 このネットワークスライシングを、自動運転などの高度な信頼性が要求される用途にお使いいただき、お客さまのDXを後押ししていくには、最大通信速度を提示するだけで保証はしない従来のベストエフォート型のサービス提供では通用しません。先々、当社では、SLA(Service Level Agreement)によるサービス品質保証でお客さまのニーズや信頼に応えていきたいと考えています。

──5G SA、ネットワークスライシングを軸に、どのようなサービスを提供していくお考えですか?

渡里 単なる回線提供ではなく、プラットフォームの提供を目指します。ユーザー企業が抱えているさまざまなペインを解消し、実効あるDXを進めていくためには、企画の工程から最後の保守まで一気通貫で支援できるプラットフォームを提供しなければなりません。今後は、通信インフラの価値にとどまらず、そのインフラを活用してどのようなサービスが展開できるかが本当の意味での価値の提供になるのではないでしょうか。