近年、行政におけるデータの重要性は増すばかりだ。2012年に電子行政オープンデータ戦略が策定されて以降、推進の動きはとどまることなく、デジタル庁がリードするデジタル政策においてはデータが基盤となっている。「データは『有用』から『不可欠』なものになった」と話す、一般社団法人行政情報システム研究所で主席研究員を務める狩野英司氏にデジタル時代の行政におけるデータ活用の意義と展望をお聞きした。
※本コンテンツは、2022年7月20日に開催されたJBpress/JDIR主催「第4回公共DXフォーラム」の特別講演2「デジタル時代の行政におけるデータ活用の意義と展望」の内容を採録したものです。
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前例の通じない時代だからこそデータの活用が必要になる
行政におけるデータ活用の必要性は日に日に増している。行政がオープンデータの推進に手をつけたのは、今から10年ほど前のこと。以降、データ活用への取り組みは一貫して続いていたが、ここにきてその必要性が一気に高まったという印象だ。
なぜ今、データ活用の必要性がより一層叫ばれているのか。その理由をひもとくにはデータの重要性を理解しておかなければならない。狩野氏は「なぜデータが重要なのか」という問いに、「人間の認識には必ずバイアスがかかるから」「人間の認知能力には限界があるから」という2つの答えを提示した。
「ガイウス・ユリウス・カエサルは『人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人たちは、見たいと欲する現実しか見ていない』という言葉を遺しました。この言葉は、われわれの社会においてもそのまま適用できるでしょう。そして、物事の関係性には無数の要因が絡んでいるにもかかわらず、人間は数個の要因でしか考えられません。われわれは、ごくわずかな要因を恣意(しい)的に選んで、さまざまな判断をしているのです」
人間は自分の主観でしか物事を捉えられない。「だからこそ人間はデータによって初めて現実を理解する手がかりが得られる」と狩野氏は話す。
そしてもう1つ、別の観点からもデータの重要性は理解できると同氏。それは日本の多くの企業が抱える課題でもある。
「これまでは意思決定を、いわゆるKKD(勘・経験・度胸)や忖度、つじつま合わせによって行うことが少なくありませんでした。これがデータを活用することにより、事実と論理にもとづいて判断できるようになります。私はここにデータの大きな価値があると考えています」
では、そういったデータの重要性を踏まえた上で、なぜ「今」なのか。その理由は「従来の解決方法が通じなくなる一方、新たな手段が発展・実用化されてきたから」だと狩野氏は分析する。
「VUCA」という言葉に象徴されるように、不確実かつ複雑であいまいな、前例の通じない時代に突入した。行政内部でも人材不足や財源不足など持続可能性に関わるリスクが顕在化し、今のままの行政を続けることが難しくなっている。一方、明るい側面としては、多様なデータが利用できるようになり、データ分析も手軽になった。デジタルネイティブと呼ばれる若い世代も潜在的データ人材として活躍が期待できる。
「データにもとづく意思決定はもはや必然と言えるでしょう。自治体でもあらゆる領域でデータ活用が進められるようになりました。今後はデータがさまざまな課題を解決に導くための必須要素になると、私は考えています。」