2021年4月、三重県の公募による常勤の最高デジタル責任者として田中淳一氏が選出された。同氏は、ユーグレナの取締役など、社会課題解決を目指すスタートアップの経営にも携わった他、地方自治体と連携し、ジェンダー平等や移住定住、人口減少対策などに取り組んだ経歴を持つ。現在は「(三重)県民の皆さん一人一人の想いを実現する『あったかいDX』」を掲げ、「県民みんなでつくるデジタル社会」の実現を目指している。これまで進めてきた取り組みの全貌と成果についてお聞きした。

※本コンテンツは、2022年7月20日に開催されたJBpress/JDIR主催「第4回公共DXフォーラム」の特別講演1「三重県が推進する『あったかいDX』~県民の皆さんと一緒に『みんなでつくるデジタル社会』~」の内容を採録したものです。

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みんなの想いを実現する「あったかいDX」

 政府により「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が決定され、各自治体でDXの取り組みが進められている。三重県も例外ではない。同県のデジタル社会の実現は、公募で選出された常勤CDO(最高デジタル責任者)である田中淳一氏が旗振り役となり推進されているが、これは全国初の試みである。

 2021年4月、同氏をCDOに任命し、同時に実行組織として総勢50人のデジタル社会推進局を設置したのを皮切りに、三重県のデジタル社会推進体制はスタートした。2022年4月に開催した「第1回 日経自治体DXアワード」においては、その取り組みが評価されて、DXリード部門を受賞した。

 三重県では、多義的な「DX」という言葉を「デジタルを活用することで、時間短縮や付加価値の向上を実現すること」とシンプルに定義している。

「DXによって余裕が生まれ、家族や恋人との時間、または趣味や学びの時間が充実するようになれば、幸福実感も向上していくと考えます。そこで三重県では『あったかいDX』と、県民の皆さんにとって親しみやすい言葉で表現しました」

「あったかいDX」の対義語は「冷たいDX」であると説明する田中氏。組織都合による業務効率化や、経営のスリム化といったことだけを目的とした「人間不在の冷たいDX」を推進するのではなく、一人一人の幸福に寄り添い、自己実現を図ることを目的としている。

 デジタル社会形成を目指すに当たって、前提条件となるのは「皆が暮らしやすい寛容な社会」だと考える田中氏。そのため「ダイバーシティー&インクルージョン」や「ジェンダー平等」を強く意識しながら改革を進めているという。

 また、行政のDXと一口に言っても「県庁でのDX」と「市や町のDX」の双方が存在するため、それぞれが、働き方を変革する「組織のDX」や行政サービス全般を変革する「サービスのDX」を進めていかなければならない。そして、「社会全体のDX」としてデジタルデバイドの解消や、県内の企業・事業者のDX促進も目指す。さらに今後は、空飛ぶクルマやドローン物流といった「空の移動革命」やスタートアップ支援、準公共分野のDXや官民データの連携も進めていく予定であるという。

「多岐にわたるDXを進めて『ミッション』や『ビジョン』を実現し、地域のサステナビリティや、県民の皆さんのウェルビーイングを向上させていくことが理想状態だと考えます。デジタル社会形成を進めていくに当たって、理想状態と前提条件を設定することはとても大切です」